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おねーさんは、ペンチに深く背中をあずけた。上を向いて、ぼさぼさの髪をかきあげる。そして、横目で僕を見ると、もったいぶるように口を開いた。
「実はアタシ、有名なシンガーソングライターなんだ」
「嘘でしょ?」
あんなにヘタクソなのに。
「世間は凡人しかいないから、アタシの歌の良さが分かんねーんだよ!」
明らかに苛立ちの混じった声で、ペットボトルをベンチに叩きつける。
「あへ。へへへ……ごめんなさい」
「別にいい」
おねーさんは不貞腐れたように、こちらを軽く睨むと
「でもアタシの才能はバレちゃいけないんだ」
と続ける。
「命を狙われてるからな」
「それは物騒な話ですね」
おねーさんはきょろきょろと周りを見渡すと、僕の耳元で小声でささやく。
「アタシは実は●●●●(超有名歌手)なんだ。でも、別人に入れ替わったんだ。みんな、だまされてる。あとはアタシを消せば完全犯罪が成立するから、刺客がいつもアタシの命を狙ってる」
真面目な顔をしてそう言いおわると、ひとさし指を口元に持ってきて
「これ、絶対に秘密だから。誰にも言うなよ」
しー。と息を漏らす。
「分かりました。絶対に、誰にも言いません」
二人で、ゆびきりげんまんした。
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