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自宅に着いた。玄関に行かずに、裏から回ってベランダに行く。カーテンの下をのぞき込む。今日はおとーさんはいなかった。不倫相手のところかな?
鍵のかかっていない玄関のドアを開ける。後ろ手にそっとドアを閉める。今日はおかーさん一人なので、楽勝だ。おかーさんは殴ってこないからね。
物音を立てないように、息をひそめてゴミの山の間をゆっくりと歩く。パキ! 何かを踏んだ。
「ヒッ!?」
悲鳴のような声がして、おかーさんが飛び起きる音がした。
「おかーさん、僕だよ」
安心させるために声を上げてみる。
「なんだ、お前かよ。起こすな馬鹿ガキが」
と苛立ちながら起き上がって、こちらに歩いて来る。
おかーさんが電気をつけた。まぶしさに目を細める。
「起こして、ごめんなさい」
「ふん」
おかーさんは、冷蔵庫からビールを取り出してプルタブを開けた。そのままごくごく飲むと『あ゛ー』とオッサンみたいな声を出した。お酒というのは、脳みそを縮めるとかよく言われているが、おとーさんとおかーさんはよく飲んでいる。そんなにおいしいのだろうか。
じっと見ていると、おかーさんと目があう。
「なによ?」
「おいしそうだなって思って」
「あげねーよ」
そこはせめて、大人になってからね。とかではないだろうか。でも僕は今さら、おかーさんにそんなジョーシキなんて期待してないけど。
「そういえば、お前。最近よく夜出かけてるけど、女でもできたの?」
「彼女ができました」
嘘です。
おかーさんは怒り出すでもなく、びっくりするでもなく
「ふーん、あっそ。そういうとこ、ほんとあの人に似てる」
床に貼り付いたガムを見るような目つきで僕を見た。
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