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「その顔、どうしたの?」
おねーさんに会うと、開口一番こう言われた。暗闇の中でも、心配の表情が街灯の薄明かりに照らされている。あちゃー。暗いからばれないと思ったんだけどな。
僕は正直に答えようか、五秒くらい迷った末に
「転びました」
嘘をつくことを選択した。
「嘘だろ!」
すぐにばれた。おねーさんは、本気で心配している顔をして僕の肩を掴むとガタガタ揺する。
「おいガキ! 誰にやられたんだ? 言ってみろ! アタシがぶっ殺してやる!」
「それは困ります」
おとーさんを殺されたら、おかーさんが路頭に迷ってしまう。そーぷの仕事は年取ってもうできなくなった、ってこの前言ってたから。
「それもそーだよな」
よかった。おねーさんは考え直してくれたようだ。
「でも、またいじめられたらアタシに言うんだぞ。ボコボコにしてやるからな」
と肩をぽんぽん叩かれた。
「……はい」
ああ、この人は親が殴ってくるなんて考えたことのない幸せな家庭で育ったんだな。後ろ暗い感情が僕の心にじわりと、滲んだ。
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