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その日も、深夜のおねーさんリサイタルを聞かされた。
「あー疲れた」
おねーさんは、ベンチから立ち上がって伸びをした。そして、公園の時計を見ると
「時間あるな。おい、ガキ。散歩するか?」
「はい」
公園内を一緒に散歩した。何度も見た景色だけど、おねーさんとくだらない話をしながら歩くのは新鮮で楽しかった。
「なぁ、ガキ。もう夜出歩くな」
「なんでですか?」
「なんでって……。親が心配するだろ」
「僕の親は、僕を心配するような人じゃありません」
はぁー。とおねーさんはため息をついて、ぼさぼさの髪をかきあげた。
「あのなぁ。最近ガキが誘拐される事件が多いんだよ。お前も悪い大人に誘拐されるかもしれないだろ?」
「誘拐されたいです」
「はぁ?」
呆れた顔をして、おねーさんは口をあけっぱなしにする。
「誘拐されたいです」
ようやく口を閉じたおねーさんを、真っすぐ見据える。
「僕が誘拐されれば、ニュースになります。みんなに心配されます。おとーさんとおかーさんは心配しないと思うけど、どうでもいいです。殺されたら、もっとニュースになります。そうしたら、かわいそうな子だねってみんなに言ってもらえます」
おねーさんの息をのむ音が聞こえた。僕は、息を吸い込んだ。
「僕は死にたいです。はやく死にたいです。でも、今僕が死んだら何も残らない。でも、誘拐されて事件になればニュースになります。毎日××くんが誘拐されましたって警察の人たちが必死で探してくれます。うれしいです。死んだらかわいそうだってみんなに言ってもらえます。痛いのは嫌だけど、僕の命は無駄じゃなかったって思える形で死にたいんです」
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