深夜徘徊少年と壊れたおねーさん

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 突然、何かあたたかいものに全身が包まれた。【それ】は、嗚咽を上げて泣いていた。おねーさんが、僕を抱きしめていると気づくのに十秒ほどかかった。 「そ゛んなこと……、言うな゛よ……!」  あたたかい雫が、僕の首筋に垂れた。涙だ。 「死にたいなんて……そんな悲しいこと言うなよ」  時折嗚咽を上げながら、ぎゅうと、僕を抱きしめる両腕の力が強くなる。僕のためにこんなに泣いてくれる人なんていたんだ。僕は感情がゴミで、泣くことなんてもう何年も前にできなくなったけど、軽く感動した。 「君の人生は、まだまだこれからなんだよ」  おねーさんは、僕をまっすぐに見つめる。涙を流して目が真っ赤に腫れていた。唇をぎゅっと噛みしめる。そして、僕の肩をしっかりとつかんで 「君が大人になったらね、もっと、もっと楽しいことがいっぱいあるよ。だから死なないで。たとえ辛いことがあっても、生きて、生きて、生きて……そしたら、大人になったらいろいろ……楽しいから。子供のときより、ずっと自由だから。漫画とか、お菓子とかいっぱい買えるし、お酒も飲めるよ。」  涙を流しながら説得を試みるおねーさんを見て、物欲ばっかりだなぁ。とぼんやり思った。 「それに、子供の頃って、ホントにせまい人間関係で生きてるんだよ。大人になったら一緒にいる人を選べるから、ね。人生って、学校だけじゃないんだよ。それに、大人になったらどこにだって行ける。この町を出て、トーキョーで暮らしたっていいんだよ?」 「それは……いいですね」  家から出ることを考えると、手足の鎖が解き放たれるような開放感があった。でも、八年後は、僕にはとても遠く感じた。
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