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彼女は歌っていた。深夜の公園で、ベンチに座ってエアギターをかき鳴らしながら。まるでシンガーソングライターのように気持ちよさそうに歌うその人は、ボロボロのスウェットを着て、ぼさぼさの髪をしていた。
ヘタクソな歌を聞き終わると、僕はなんとなく拍手をした。そこで初めて、観客がいることに気づいたのだろう。ビックリした顔をする。
街灯の下に照らされた彼女は、アーモンド形の目をして鼻筋の通った美人なおねーさんに見えた。少なくとも僕には。
『なんか、これって運命的な出会いじゃない?』って思った。深夜の公園で、少年とおねーさんの出会い。うーん、ロマンチック。
おねーさんは、ゆっくりと口を開く。『おい、少年』とか言いそうだ。しかし、
「何見てんだよ、クソガキ」
開口一番、おねーさんは形のいい眉を吊り上げながらこう言った。ここはラノベでなく、現実なので。
「あ、あの……歌、よかったです!」
誰かを怒らせたときは、褒めてごまかすのだ。僕は、十年間の人生で学んだことをここでも実践すると、
「そーか? じゃ、もう一曲聞いてく?」
鼻の下を擦りながら、おねーさんはヘタクソな歌を歌い出した。
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