深夜徘徊少年と壊れたおねーさん

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 今夜も僕は、近所の自然公園に行く。おねーさん、いるといいな。公園の脇道にある『痴漢に注意!』の看板を通り過ぎて、腕がかゆかったのでガリガリ搔いたら少しぷくっとしてる。虫に刺されてるみたいだった。春先なのに、蚊ってもういるのかな。いや、ちがう。しばらく布団を洗ってないからダニかもしれない。  そんなことを考えてると、ヘタクソな歌声が聞こえた。僕は胸をドキドキさせて駆け出した。おねーさんだ。  おねーさんは今日も、ぼさぼさの髪にスウェットを着てベンチに座っていた。今日はエアギターはしていなかった。バラードの曲らしい。音痴すぎてお経に聞こえるが。  歌い終わったので、拍手をする。おねーさんは僕に気づく。 「なんだクソガキ。また来たのか」 「まあ、座んなよ」  横をトントンされて、僕はおねーさんの隣に腰掛けると 「お前、あんま警戒心ないけど大丈夫か?」  と心配された。 「怪しい大人には近づくんじゃねーぞ」  とちゃんとした大人みたいに忠告してくる。深夜の公園でリサイタルを開いている人が言う言葉じゃない。 「はい」  と答えると、 「ちゃんと分かってんのか?」  訝しそうな目で見てきた。 「じゃあ、アタシがお菓子あげるから家においでって言ったら?」 「ついていきません」 「ラーメン食べさせてあげるからついて来いって言ったら?」 「ついていきません……あ!」  おねーさんは、はぁーと大きなため息をつくと 「知らない大人には、ついていかないこと!」  ひとさし指をピンと立てて、真面目な顔で言った。 「じゃあ、知ってる大人ならいいんですか?」  目を丸くしたおねーさんと真っすぐに向き合い、切れた唇の端を、ぺろりと舐めると言葉をつづけた。 「おねーさんのこと、教えてください」
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