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ささっと手の甲で目尻を拭ってから返事をした。
『どうしたの?』
『小林に藍川から部活の時間聞かれたって聞いて…あ、いや、そう、ちょっと学校に忘れ物して…。』
何だかごちゃごちゃ言っててよくわからない。
そういえば小林くんと仲良しだったね。
そして『一緒に帰ろうぜ。』と言って校門に向かって歩き出した。
半歩前を行く広瀬くんが振り向かずに言った。
『藍川さ、先生に告白したんだな。』
『…さっき見てた?』
広瀬くんが出てきた時、見られてたかもしれないと覚悟していた。
『ごめん、見た。
それに部活やってる時から何となく気持ちはわかってた。』
先生と広瀬くんと3人で話すことも多かった。
隠し通したつもりだったのに、バレてたのか。
変に捻れた噂が立つのが嫌で、親友の真紀にも打ち明けなかった。
『でも、何でよりによって今日言ったんだよ?
エイプリルフールだからだと思われてたじゃん。』
『今日だから言ったんだよ。』
『だから何で!』広瀬くんは止まって振り返った。
自分のことのようにイラついてくれている様子が嬉しいなと思った。
もう、この学校は卒業した。
気持ちを認めてしまっても先生に迷惑はかからないよね。
『迷惑かけたくないからさ…好きな人には。』
『別にもう卒業したんだからいいじゃん。』
人に説明するようなことではないけど、ちゃんと伝えないと話が終わりそうにない。
『だから…返事できないことを聞かせて困らせたくなかったからだよ。
エイプリルフールだからだと思ってもらえたらせんせーの負担にならないじゃない。
次に会うとき、気まずくさせなくてすむじゃない。
叶わないのわかってて私が言いたかっただけだから。
…せんせー、6月に結婚するんだよ。』
『あっ…。』広瀬くんは言葉に詰まって前を向いた。
そしてまた半歩前を歩き始める。
校門を出るときに弓道場の方を振り返った。
両側にそびえ立つ桜の木の枝に僅かに残っていた花びらが風に舞う。
さよなら、学校。
さよなら、片思い。
もっと他にやれることがあったかもしれない。
だけど先生の近くにいたくて3年間努力したこと、無駄じゃなかったと思いたい。
少し先で待っていた広瀬くんに追いついた。
『明後日の入学式、一緒に行こうぜ。
授業の登録、1人じゃ不安だし。』
受験が終わってから広瀬くんと同じ大学だとわかった。
みんなで話していた時と志望校が違ってた。
途中で変えたんだね?
知っている人がいて私も心強い。
『そうだね、一緒に行こう。』
大学について話しながら駅へ向かった。
これから始まる新しい世界に先生はいない。
すぐに気持ちを切り替えられるわけじゃないけど、それが当たり前になる生活に早く慣れたい。
駅に着いて別れる時に広瀬くんはまた話を持ち出してきた。
『でも本当バカだなー。
自分の気持ち、ちゃんと受け取ってもらえばよかったのに。』
そんなに心配してくれるとは思ってなかった。
部長と副部長になってからは仲良くやってきたけど。
『もういいよ。終わったの。』
『ま、他人を優先して自分の気持ちを押し通せないのが藍川のいいところだけど。』
『あはは、ありがと。』
『そんなとこも好きだよ。』
えっ!…と少し動揺したけれど、広瀬くんの表情はニヤニヤしていた。
『わわっ!
エイプリルフールだからって良いこと言ってくれちゃって。
でもまあ、慰めてくれてありがとう。』
『いや、慰めるというより。
藍川と同じことをしただけだけだよ。』
…ん…?
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