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めぐちゃんは、みんなの人気者だ。
とても頭が良くて、礼儀正しく、誰にでも優しい。
みんなの嫌がるクラスの生活委員だって立候補して、率先して取り組む。
とても正直で、ハキハキと、それでいて、優しく。
まるで、歌うように話をする。
誰からも信頼されている、めぐちゃん。
誰からも好かれていて、そして、誰のことも公平に愛している、めぐちゃん。
ただ、おそらく、あたしのことだけを除いては。
「みらいちゃん」
めぐちゃんだけは、あたしのことをちゃん付けで呼ぶ。
めぐちゃんの声は、とてもきれいなんだ。
よくクラスで発表する時に、教室じゅうにひびきわたるその声は、まるで、フルートみたいな声。
あたしはめぐちゃんに名前を呼ばれたとき、まるで、フルートの演奏をきいてるみたいに、耳の奥がしゅんとする。
「きいてる?みらいちゃん」
「うん」
「その髪飾り、校則違反だよ。
外しておいてね」
「えっ、でも」
このヘアピンは、ちかちゃんが旅行のおみやげにおそろいで買ってきてくれたもの。
ちかちゃんだって、毎日つけてるよ。
今日だって。
どうして、あたしだけ?
そう思ってめぐちゃんを見るけど、こんなとき、めぐちゃんは、あたしのことをとてもこわい顔で見つめる。
なぜか、怒ったような瞳で。
あたしだけ、なんでめぐちゃんに、こんなにきらわれてるんだろう。
そう思うのに。
めぐちゃんの凛とした立ち姿と、後ろで風になびく黒くてさらさらの髪の毛に、あたしはいつもみとれてしまう。
ちびで、くせっ毛のあたしとは大違い。
いいなあ、って。
さわってみたいなぁと思う。
だけどきっと、怒るんだろうな。
どうしてなんだろう。
あたし、めぐちゃんに何かしたのかな?
とても悲しくて、だけど、何もきけなくて。
「みらい、卒業式始まるよ、行こう」
ちかちゃんに声をかけられて、あたしは、歩き出す。
4月2日。
「みらい。ポストに手紙が」
お母さんから、白い封筒を手わたされた。
差出人は、なんと、あのめぐちゃんからだった。
『みらいちゃんへ
卒業、おめでとう。
もう多分会うことはないから、最後に伝えたいことがあって。
みらいちゃんは、私のことをどう思ってた?
私は、みらいちゃんの誰とでも仲良くできる、いつも楽しそうにたくさん笑ってる、少しおばかさんなところが、あまり好きじゃなかった。
というか、けっこう嫌いだった。
いつも私のことを見ていたの、知っていたよ。
どうして?って聞きたかったけど、
もうきけることもないのかな。
もし次にどこかで会っても、
きっと話しかけることはないけど。
それだけきいてみたかったんだ。
バイバイ。
4/1 めぐむより』
なんなの、この手紙。
めぐちゃん、いったい何のつもり?
あたしが見てたの、知ってたんだ。
きらいとか、言うなら……
こんな手紙よこさないでよ。
なぜか、涙が止まらなくて。
手紙をグシャリと潰して、あたしは家を出た。
家の近くの歩道の、桜並木。
桃色の花びらが舞い散るなかを、ひとりで歩いていて、ふと、きづく。
めぐちゃんの手紙の、名前の横の日づけ。
「あっ……」
きのう。
4月1日は……
「みらいちゃん」
後ろから声がきこえた。
とてもきれいな、あの声。
「嘘ついて、ごめんね。
私ね。
本当はずっと、みらいちゃんのこと…」
ああ。
フルートの声が、あたしの耳の中をまた、いつもよりいっそう、しゅんとさせる。
END
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