1. クズ、焦る

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 あれから1時間ほど経ち、店内の混み具合も少し収まってきた。空いたグラスを片付けながらチラリとカウンターの方を見ると、さっきの男2名客はどんどんグラスを空にしていた。  余裕そうに注文した酒をどんどん煽る髭の男とは対象的に、メガネの男は頬を赤く染めながらボーッとグラスを両手で持っている。 一一一……あれ飲みすぎじゃないか?もしかしてあいつに飲まされてる?  少し不審に思いながらも、ずっと2人を監視しているわけにもいかず、チラチラと様子を伺いながら自分の仕事をこなした。  すると、髭の男が何か耳打ちをして席を立った。髭の男はそのまま店を出て、メガネの方が自分の鞄から慌てて財布を取り出す。 「あ、あの…すみません。チェックで…」 「はい。かしこまりました」  かなり飲んでいたのは髭の方だし、来た時は俺の奢りだとか何とか言ってた気がするけど…。メガネ君が支払うのか。まあ別にいいけど。  会計をしてお釣りをトレイに乗せて、カウンターにいるメガネ君に差し出した。俺が「ありがとうございました」と言うと、「は、はい!ご馳走様です。美味しかったです」とお辞儀をして席を立ち上がった。  そして出口の扉を開いた時、外にさっきの髭の男が立っているのが見えた。扉が閉まる一瞬だったが、メガネ君の腰に手を回してキスをしたようだった。 一一一あー、やっぱり付き合ってたんだ。結局全部払わせてるし、領収書もレシートも要らないって言ってたから後から割り勘する訳でもなさそう。髭の男、ろくな奴じゃなさそうだな。  メガネ君が不憫に思いつつも、まあ俺には関係ないかと気にするのをやめた。 一一一……やめた、が。  なんでか、さっきの2人が気になってしまう。髭の男がクズっぽかったから?同族嫌悪…ってやつ? 「星詩くん星詩くん、悪いけど表の灰皿見てきてくれない?さっきお客様から灰皿が倒れてたって聞いてさ。汚れちゃってたら一旦裏に下げていいから」 「あー了解っす」  ちょうどタイミングよく八瀬先輩にそう言われ、俺は裏口から出た。外の風に当たって少し気を落ち着かせるか…。 「えーっと…灰皿、灰皿…ん?」  店の裏を通って行こうとすると、何か人影が見えた。真っ暗な中、小さな灯りだけがついている店の裏に2人。誰かいる。  普段、ここに従業員以外は来ない。咄嗟に足を止め、そーっと様子を伺った。何か話してるようだけど…。 「えっ…あれ、さっきの…」  よく見てみると、そこにいるのはまさに。さっきまでカウンター席にいた髭男とメガネ男だった。2人は身を寄せ合い…というか、髭男の方が強引にメガネ君に迫ってるように見える。 一一一…おいおい、まさかここでおっ始める気か?勘弁してくれよ。  髭男はメガネ君の体をまさぐり、強引にそのまま頭を抑えて自分の足元に跪かせた。何をされそうになっているか大体分かった。 一一一…あーー、もう!こんな所で…。メガネ君はなんでされるがままなんだよ。抵抗しろよ。 「あの一、すみません」 「うっわ!?びびった…」 「うちの店の前でそういったことは…」 「…んだよ、さっきの店員かよ」  俺がそう言って2人に近付くと、髭男はベルトを締め直して背中を向けた。邪魔されたからか、すごく不機嫌そうだ。  こっちだって、人の行為を見せられるなんて気分のいいものじゃないんだが?
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