1. クズ、焦る

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「なんか萎えた。俺先帰るわ」  髭男はそう言って背中を向ける。メガネ君は慌てて立ち上がろうとするが、やはり酔っ払っているようで足をふらつかせしゃがみ込んだ。 「あっあの!僕も…」 「あー、もーいい。じゃーねー」 一一一……うわ、本当に置いて帰った。俺が引くレベルってクズ度高すぎだろ。  メガネ君は地面にしゃがみ込んだまま、ボーッと前を見ている。一応お客さんだし、このままにしとくのも店的に微妙だし、この場を何とかしないと…。 「あの…大丈夫ですか?」 「すみません!!あっ、恥ずかしい所を…」 「い、いえ…。あの今の彼氏さん?は…」 「彼氏じゃないので…大丈夫です。今日初めてマッチングした人なので…」 ____えっ。  思わず素で言いそうになった。別に珍しい話ではないし、男女でも男同士でも女同士でも最近はもはや主流だ。俺もマッチングアプリで知り合うことはある。でも、まさかこんな真面目そうな人がやってるとは思わなかった。 「そう…ですか」 「すみません!ご迷惑をおかけして…」 「ああ、いえ」  でも、むしろそれなら飲まされてたのも、奢らされてたのも納得。髭男は最初からこの人に奢らせるつもりで誘って、終いには酔わせて性欲を発散させようと思ったんだろう。  フラフラと立ち上がったメガネ君の足腰は不安定で、俺はよろついた体を思わず支えた。近くで見ると頬を赤く染めた表情は恍惚としていて、童顔にしてはまつ毛も長くて端正な顔立ちだ。 一一一……今さっき、初めて知り合った男に無理やり舐めさせられそうだったのに。怖がってる感じも泣きそうな感じもないな。むしろ…なんか…言葉選ばずに言うとエロい。 「大丈夫ですか?気をつけて…」 「ありがとうございます…、あ、」 「え?」 「お兄さん…首にタトゥー入ってるんですね」 「え」 ____確かに、首筋にワンポイント入ってるけど…制服の襟で隠れるから見えないはずなのに。少し傾いたから見えたのか?なんで今そんなこと…。 「あ、ピアスも。かぁっこいい」 「……はい?あの、大丈夫ですか?帰れます?」 「さっきの人も…なかなかクズでしたけど…僕お兄さんみたいな、見た目の方が…好み…」 「え?なんの話…」 「…すーすー」 寝た。こんな秒で?嘘だろ?
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