1. クズ、焦る

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 結局、酔って寝てしまったメガネ君を置いておく訳にもいかず。先輩に事情を話してタクシーを呼んでもらい、無理やり押し込んで住所だけは寝ぼけながらも吐き出させた。  何とかっていうマンションの名前も言っていたし(個人情報だからしっかり聞いてない)とりあえずそこまで着けば大丈夫だろう。 「八瀬先輩、ありがとうございました」 「いいよいいよ!酒提供してる店はありがちだし!でも最近はああいう酔っ払い無かったから珍しいよね〜」 「そう、っすね…」  メガネ君寝落ちする寸前、何か言ってたな。さっきの人もクズだったけど俺の見た目の方が…とか何とか。まあ寝ぼけてただけだろう。  わざわざマッチングで男と飲みに来たってことは、俺と同じゲイなのか?いや、バイってことも有り得る。あの様子だと、また変なのに捕まりそうだけど…俺には関係ないし気にしなくていいか。 「あ、俺残りの皿とかグラス片付けますね」 「ありがとう〜」  うちの店であんまり男同士の情事は見かけないし、あのタイプは俺が寝た中でもいない。目を蕩けさせながら俺のタトゥーを見て「かっこいい」と笑っていたあのメガネ君の表情。髭男に酷い扱いをされた後とは思えなかった。慣れてるのか?意外とやり手だったりして。 ____いやいや、気にしなくていいって思ってすぐ気にしてるし。それだけ印象強かったってことだろう。  その日のラストオーダーまでの時間。何だかムズムズして、仕事が終わった俺はある人に連絡をした。「今から会える?」と連絡したら「家ならいいよ」とすぐ返ってきた。  閉店後にバーを出て深夜3時に向かったアパート、木造2階。玄関の前に着くとゆっくり扉が開いた。 「…こんな夜中に迷惑なんですけど」  そう言いながら不機嫌そうな顔で中から顔を出した男。こいつは唯一のセフレ兼友達、真崎宏紀(まさきひろのり)。同い年で2年前にクラブで知り合った。  最初はワンナイトで終わるかと思ったが、宏紀とは体の相性も文句なく。お互い波長が合うのか、1回で終わらず連絡を取り合っていた。今では気の合う友人の1人。ただしセックスはあり。 「ごめんごめん、仕事終わりでさ。酒買ってきたけど飲む?」 「いらねーよ。こちとら寝起きだわ」
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