1. クズ、焦る

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 宏紀はボサボサの頭で笑いながらビニール袋を受け取った。文句を言いながらも、いつも俺が何か頼むとすぐこうやって「いいよ」って言ってくれる優しい奴。  こんな自分の都合いい時間に押しかけてくるような迷惑男を迎え入れてくれるんだから。 「で、どうしたんだよ。仕事終わりにわざわざ来るなんて」 「あー…いや、なんとなく」 「なんだそれ」  相変わらず綺麗に片付けられた部屋に入り上着を脱ぐ。後ろから宏紀の体に絡みついたら「手は洗え」と小突かれた。面倒くさそうに洗面所に行く俺を見ながら困ったように笑う。  戻ってくると宏紀はベッドに座り携帯を触っていた。そのまま上に跨り押し倒すと、察したように携帯を置いて身を任せてきた。 「なに…欲求不満なの?」 「んー、なんだろ…。なんとなくムラついて」 「はぁ?仕事中に?」 「…ああ、うん」  その言葉でさっきの光景が頭に浮かんだ。あのメガネ君と髭男の出来事。そしてメガネ君の間近で見た表情と、漂ってくる俺が作った酒の匂い。  あんなのでムラつくとか、俺…欲求不満なのかな。 「まあ別にいいけど…」  宏紀の頭を持ち上げてキスをすると、それに応えるように唇を動かし始めた。舌を絡めると、浅い吐息が宏紀から漏れる。下の方へ手を滑らせて触れると、「んっ」と声を絞り出して体をはね上げた。 「あれ、柔らかい。準備してたの?」 「…うるさい」 「俺が来るまでの間、解してた?」 「だーかーら!うるさい!早くやって」 「照れてるんだ?」 「…違う」  宏紀はもう何回も寝てるのに、毎回こんな初々しい反応をする。そのおかげで俺も意地悪したくなるし楽しめる。宏紀は迫られたいみたいだし、本当相性いい。  こういうのでいい。 「あ…っ!う、そこダメ、」 「だめ?」 「くっ…、んん、あっ…」  木造アパートだから音が響きやすいのに、激しい水音と宏紀の声が我慢できずに溢れ出す。指を入れて攻めていると、いいから早くって求めてきた。 「…っいれるよ」  容赦なく奥まで突っ込むと、宏紀は仰け反って甲高い声を上げた。揺さぶる度に俺にしがみついて肩に歯を立てた。それにまた誘惑され、激しく奥を突き続ける。 「ぁあ…一一!!うっ… 、んんっ!!」 「…っ声、我慢しなくていいの?」 「む、り…ぁっ!はっ、ぁぁ…」  こうして関係を持ち続けてるのは宏紀だけ。あとはみんなワンナイトで終わる。しつこく迫ってくる人だったら関係続けるなんてしないけど、宏紀は俺と同じで恋人が欲しいわけじゃない。人肌恋しさを埋めてくれる人が欲しいだけと言っていた。  だから、お互い丁度いいんだと思う。 「星詩…っも、う…ダメ、」 「ん…、俺も」  限界を迎える時、宏紀はいつも俺の首筋に入ってるタトゥーを噛む。いつもはその痛みが刺激になって俺も燃えるけど、なぜか今日は違った。 “お兄さん、首にタトゥー入ってるんですね。かぁっこいい” 「……っ、う」  今日のただの酔っ払い客を思い出して達っするとか、やっぱりどうかしてるな。疲れてんのかな。
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