アイツは屑な俺が好き

1/1
前へ
/11ページ
次へ
一一一一……高校1年生の冬。 俺は、この時既に自分のセクシュアリティを自覚していた。だって、生まれて初めてだった。誰か1人に対して「会いたいな」「かっこいい」「好き」って思ったのは。  しかも、それは同じクラスの男子。イケメンでスポーツもできて、女子にすごくモテてた。物静かな方だった俺にも、優しく話しかけてくれて。惚れた理由は単純でも、あの時は幼いなりに、密かに…確かに片思いをしていた。  周りの友達が、女子の話やグラビアアイドルの話で盛り上がる中、俺は密かにそいつに視線を向けていた。  でも、冷静に考えて。あの時は思春期だし、俺みたいな奴は少数派だって分かってたし。だから告白とかするつもりなかったし。伝えた所で付き合えるわけない。  だから、密かに想ってただけだったのに。ある日、放課後の冷え切った教室で突然そいつに言われた。 「お前、俺のこと好きなの?」  その時、ひゅっ、て喉が締まった。隠してたのに、誰にも話してないのになんでって。手足から血が引いてサーって冷たくなった。そうして何も言えなくて俯いていると、 「なんてな。お前に本気で好きとか言われたら気持ちわりーわ。男なんて有り得ねーし」  って言われて。数秒間瞬きも忘れ、呼吸も忘れた。顔を上げたら、そいつはその整った顔で俺をバカにするように笑っていた。 ____そっか、そうだよな…気持ち悪いんだ、俺。  初めて好きになった相手に言われたその言葉は強烈に頭に響く。何も言葉が出てこなかった。誤魔化すように笑って、「だよねー。ないない、有り得ないし」って言えばよかったのに。口が凍りついたように動かない。  そんな俺を見て、そいつはまた言った。 「え、もしかしてガチ?当たり?お前いつもすげー俺のこと見てくるから、からかっただけなんだけど」 ____からかっただけ…。そっか、俺の気持ちってからかわれても仕方ないレベルなんだ。  そいつに言われたこと全部がグサグサ脳天を突き刺す。もうメンタルは瀕死状態。でもトドメを刺すようにまたそいつは言う。 「もしガチならさー、付き合うとかマジで無理だけど、1回だけヤラしてよ。男となんて中々できねーし。人生で1回くらい試したいじゃん?」 「でも萎えるかなー。あ、後ろからなら顔見えないしいけそうじゃね?もちろん痛い方はお前やれよ」  その時俺は、初めての好きな人で初めての片想いで、まだ恋愛経験もない童貞だったからか。その言葉と、そいつのクズっぷりは衝撃的でやけに俺の頭にこびりついた。  その後は、どうやって家に帰ったか覚えてない。ただ、何も言えずに走って教室から出て行った気がする。  次の日から、俺がゲイだとか気持ち悪いって言いふらされるかと思ったけど、そいつは言いふらさなかったようだ。代わりに、俺と話したことや俺の気持ちなんて無かったことみたいに、何も気にしてない顔で女の子とイチャイチャしてた。  少し気まずそうにするとか、昨日のことについて触れてくることも無い。俺への対応も前と変わらない。 ____昨日のこと、俺の気持ちに気付いたこと、今までの俺の気持ちも。無かったことにしたんだ。俺が逃げたから?そっか、覚えていたくないんだ。  だったら、俺の気持ちを無かったことにされるくらいなら…悪態ついてでもいいから少しでも覚えててよ。あの時逃げずにヤッてもいいよって答えてたらどうなってたの、なんて。  あんな酷いこと言われたのに、あんな男だったのに、何度もそう思ってしまった。幼かったんだと思う。  でも、もう今となっては過去のこと。これはただの思い出で相手の顔もうろ覚え。だけどあの時の気持ちは、ずっと俺の中で鮮明に生きてるようだ。 一一一一………そして、現在。俺、柏山星詩(かしやまほし)24歳。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加