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「巫女様、足元にお気をつけ下さい。」
一際凛とした声の主に視線を向ける。赤いベールを目元付近まて被ったその人。
目の前の人物は一時期は殺したいほど憎い相手であり、彼女のせいで理由もなく母から離され白き巫女としての立場を強いられた。
巫女としてあるべき姿。
それを一から教え込んだのはこの人だ。
泣いても喚いても決して許してなどくれず、幼い頃は祈りの儀式自体から逃げ出す事は多々あった。膝から血が出ようとも熱があろうとも必ずマイラを迎えに来て引きずって行く。
まるで悪魔か死神のようなその人を心の底から憎んだ。
「巫女様、このサミュを殺したくば殺しなさい。ですが、貴方様は白き巫女でなければならないのです」
密かに隠し持っていた木をナイフ型に削いだ物をサミュに見つかり、マイラの手に持たせて自身の首に当てながら彼女はそう叫んだ。
「貴方がやらなければ、この国は滅びるのです」
サミュにはいつも言われていた。
民のために国のために祈るのです。
国の平和
国の恵み
民の幸せ
それが白き巫女の役目なのだと。
祈る事が国を助ける。
信仰が民に生き抜く力を与える。
そして、我が国の守りを固めるのだと。
だが、マイラにとっては国や民の事などどうでもいい。
幼き日に別れた母さえ無事で幸せであればいい。
国を守るのは母がいるから。
民の幸せを祈るのは母の幸せを願うから。
マイラにとって母が無事で生きている事が絶対だった。だから、定期的に母の状況をサミュに報告させている。
ただそれだけが、マイラが性別を偽ってでも巫女として生きる意味なのだ。
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