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「母さん!」
アルドは懸命に追いかけてくる母の手を掴もうと必死に体を捻ろうともがく。
だが屈強な体をしている兵士達に掴まれていて振り解きたいのに指一本すら自由にならない。
「アルド!アルド!」
「母さん!」
「行くぞ。馬に乗せろっ!」
兵を引き連れてきた人物であろうその男は豪華な装飾の服を纏い腰には剣を携えている。母は指令を下すその男の足元に跪き必死に繋ぎ止めようとしていた。
「お願いです!アルドを息子を返して下さい!」
「おいっ、これは国王陛下のご命令だ。王命であるぞっ!」
「アルドは私の息子でございます!お願いですから返して下さい!」男の足に必死に両腕でしがみつき泣きながら母はお願いし続けている。
だが、その間もアルドを抱えた兵士達は後ろを振り返る事なく前に進んでいく。
「女、その腕を離せっ。」
「では、私も連れて行って下さい!」
「王命は息子のみ連れてこいと仰せだ。そなたは必要ない!」
「お願いでございます!お願いでございます!」
母が必死に叫んでいる声を聞きながらアルドも兵士達から逃れる術を考えていた。
ちょうど後ろ手に何か硬いものが触れ一か八かそれを手にして振り回す。
「うわっ!お前っ、それを離せっ!」
アルドは意図せず手にした短剣を手に兵士達を蹴散らして母の元へ走った。
常日頃から山で鍛えた足は身軽に早く、あっという間に男にしがみつく母の元へと辿り着いた。
「アルド!」
母は男から離れアルドを抱きしめる。
「母さん!逃げよう!」
アルドは母の手を取り走ろうと丘と反対側を目指す。
ここの山あいは複雑な道が沢山ありアルドはその全てを把握している。せめて、丘を降りれば複雑な道を抜けて逃げ切れるかもしれない。
母の手を強く握りアルドはその一歩を踏み出そうとした。
だが、「あぁっ!」という母の声と共にアルドと繋がれていた手が滑り落ちた。
「母さんっ!!」
地面に倒れた母の背中は横から真っ直ぐに切られた刀傷がありそこからは血が大量に流れている。
「母さん!」アルドは倒れた母の体を抱き寄せ仰向けにさせた。
母はわずかに腕を上げてアルドの頬に触れた。
その指先からはまだ母の温もりを感じる。
「アルド、私の宝物。早く逃げなさい。」
目から一雫の涙を流し母は目を閉じ体からは力が抜けた。血は流れ続けアルドの服は血濡れに染まっていく。
「母さんっ!目を開けて!母さん!」
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