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「おい、お前早く来いっ!」
そう叫ぶ男の手には剣があり、そこには母の血がベットリ張り付いているのが目に入った。
アルドは母の体をそっと優しく地面に横たえると何も考えずに全力で男の元へ突っ込んでいった。
体中に血が巡り怒りの熱で焼かれそうなくらい全身が熱い。
だが、反対に頭はクリアで明確な2文字しか浮かんではこなかった。
殺す
ただそれだけが頭を支配し男に全神経を集中させる。まだ手にあった短剣を両手に握りしめて剣先を相手目掛け振り上げそのままの勢いで飛び上がり、上空から剣をありったけの力で振り下ろした。
ガガっ!!
アルドは剣と剣がぶつかり合うとくぐもった音が鳴るんだとこの時初めて知った。
自分が切られる恐怖などはなく、ただ相手の喉元を狙い定めて向かって行く。
剣を手にしたのは初めてだし人に向けたのも初めて。
だが、目の前にいる男だけは自分がどうなろうとも殺さなければならない。
ガチンっ!!
何度剣を跳ね除けられようが、切り刻まれようがアルドは一心不乱に剣を離す事なく振り続けた。
いつの間にか体を斬られていたのだろう血が流れ出ていたが、痛みは感じない。
ただ悲しみと怒りが交互に押し寄せてくるだけだった。
「くそっ!お前いい加減にしろ!」
男が手に持つ立派な剣を高く振り上げ構えをとった。男は先程までとは目の色が変わっている。アルドに殺意を向けた目だ。
それでいい。
相打ち覚悟でいってやる。
アルドは片足を後ろに引きそのまま前方へ体を振り上げる。狙うは奴の首元。そこだけを見て全体重を腕に込めた。
「やめろっ!!」
もう少しで相手に届きそうだった剣先が止まった。
そこからは血がボタっと落ち続けて地面があっという間に赤黒く染まっていく。
アルドの視線の先には短剣を掌で握りしめて止めた巨体が目に入った。
いや実際には剣を交えていた相手と同じくらいの体つきなのだが、その男からでる威圧感が重くジリジリとアルドにのしかかりピクリとも動かす事が出来ない。
男は、チラッとアルドを見ると「母親を助けたければ剣を収めろ」そう一言告げた。
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