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「またお前か」
赤いベールが強く吹き荒れる風でなびく。
目元しか見えないサミュの表情は険しく怒りに満ちたものだ。
その視線を真っ向から受けてアルドは今、断崖絶壁に追い込まれていた。
崖を上り切った場所には想像よりもはるかに多くの追っ手がおり、木々が生い茂る中からの無数に放たれる弓矢と次々に仕掛けてくる剣の攻撃をかわすのに必死だった。
気づいた時には後ろはすぐ海という断崖絶壁まで詰められてしまっていた。
飛んで避けようにも木々が邪魔だな。
追い込まれるほどに頭はクリアになる。数えきれない戦場を経験してきたからだろうが逆に冷静に現状を捉える事が出来るのがアルドの強みだ。
それに相反するように追い込んだ側のサミュは苛立ちが隠せないのか仕切りに「早く仕留めろ」と叫び続けている。
「あの者は巫女様を汚すものだ。決して生かしてはおくなっ、打ち取れ!」
サミュの怒号が森にこだまする。
その凛とした声に反応する様に、周りの者達が奮闘の雄叫びを上げた。
我先に手柄を立てないのかダンゴ状なって突っ込んでくる者達を見ながらアルドは剣を構える。
戦いを知らぬ者が大多数なのだろう。
武器の持ち方も何もなっちゃいない。
アルドは薄く笑い体を低くして息を詰める。
残虐なる騎士。
その異名そのままに彼の剣はまるで舞うように襲いかかる相手を次々と切り倒していく。
味方が倒れていく様を見ながらサミュは次第に後退して行く。
恐れを感じた方が負けだ。
そのまま相手側に間合いを一気に詰め、アルドはサミュの首元に剣を当てた。
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