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「....タール国から出れば巫女が死ぬという事か?」
「お前に教える必要はない。巫女様は我が国の宝だ。それを横取りして汚そうなど神の怒りに触れるようなものよ。」
それでも良ければ巫女様を連れ去れば良い。
サミュはそう言い終えると「殺せ。巫女様がいない国など生きる意味などない」そう告げて目を閉じた。
サミュの毅然とした態度にアルドは思いを巡らせる。
これは信じるに値する事なのか。
タール国から出れば巫女は死ぬ。
その噂は本当だったという事なのだろうか....。
「どうした?賊ならば賊らしく血も涙もないように殺せばよい!」
サミュが叫ぶ。
彼女もまた命懸けで巫女を守ってきたのは事実なのだろう。
巫女がいなければ生きる意味はない。
そんな強い意志をヒシヒシと感じる。
「巫女が自らの意思で国から出て生きようとしていても、お前は祈りが大事だというのか」
サミュは静かに目を開けて至近距離にいるアルドの目を見た。その目は冷たくまるで氷のような視線だ。
「白き巫女に自我はいらぬ。国のために身を捧げるのが巫女の務め。
それが国を守る。そう太古から決まっているのだ。賊よ。」
「....ならばその巫女の運命を俺が引き受けよう。必ずここから出してそして安全な場所へ逃す。」
「分からぬ奴だな。巫女様の安全はここにしかない。」話の分からぬ奴だと言わんばかりにサミュは盛大なため息を吐いた。
話すべき事はもうない。という様に再度目を閉じアルドに首を差し出してきた。
「ならば、お前の目で確かめろ。海の神の呪いがあるのかどうかを」
「何だと?」
アルドはサミュの胸元を掴みそのまま担ぐ形で崖に身を投げ出した。
「お前っ!!」
サミュの叫びもそのままに断崖絶壁から海に飛び込む。
飛び出した岩場を避けながら出来るだけ遠くに体を落とし飛び込んだ。
「アルドっ!!!....」
海に叩きつけられる瞬間、巫女の声がしたような気がしたが意識を水面に向ける。
サミュを腕に抱き込んだまま頭を丸め衝撃に備える。そのまま2人の体は重力に逆らう事なく凄まじい衝撃とともに海の中に落ちて行った。
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