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「これで?無理、無理。」
もうこれで何度目だろうか。
母が作った刺繍織の布を手に店に回って何かと交換出来ないかと聞いてみるが皆が揃って頭を横に振り無理だと言う。
作物が取れず物の値段が上がっているんだよ。
そうさっきの店の女の人が言っていたが、マイラには何の意味だか分からない。
ただ、手持ちの物では何も買えない事だけは分かる。
「あら、あんた良いフード被ってるじゃない。
それなら果物と交換してあげるよ」
マイラの後ろから声をかけてきたお婆さんがおいで。おいで。と手で呼び寄せている。
「可哀想に。お母さん体調悪いんだろう?果物とパンと特別に交換したげるよ。ちょうど孫が欲しがっていたんだよ、そういの」
そう言ってニコと笑う気の優しそうなお婆さんの提案にマイラは大きく頷いた。
これで、母様が元気になる。
母の事しか頭になくマイラは被っていた頭巾を脱ぎお婆さんに渡した。
「アンタっ!その髪!!」
「え?」
「おい!あれ!」
「白い髪。まさかっ」
「おい、誰か祭司様を呼べっ!早く!」
いつの間にかマイラの周りには人集りが出来てしまい中にはマイラを見て泣いている人までいる。
何?
どうして?
どうしてこんなに人が沢山いるの?
自分の置かれた状況が分からずにマイラは周りを見回す。自分より大きな大人達に覗き込まれあまりの威圧感に涙が溢れる。
と、その時
「そこを退きなさい」
凛とした強く発せられた一言に辺りは一気に静寂に包まれた。
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