プロローグ

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プロローグ

 あの夏の日、私は彼に(さら)われた。 縛られても脅されてもない。(おび)えて足がすくんでもいない。何なら乗せられた車のドアは開いたままだ。 なのに私は降りなかった。 そうしようと思えば簡単に出来たはずだった。 思い出すたび不思議になるけど、きっと彼が言ったようにこれが「奇蹟」だったんだろう。 『条件その1、俺のことを知らない奴。その2、口が固い奴。今日のことは一切、他言無用だ』 (ちかし)は人差し指を唇に当てて、無邪気に笑った。
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