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「君は今、自分の意志で僕たちと一緒にいてくれてるね」
私は力強く頷く。
「でも、君はまだ17で未成年だ。この場合は本人の意志を反映させるのは難しくて、本当は保護者の同意がないといけないんだ」
まただ。
来年の春には18になるのに、今と何がそんなに違うのだろう。こんなにも強く、私はここにいたいと思っているのに。
「後で正式な書類は作るつもりだけど、家族に外泊することをひとこと連絡しておいて欲しいんだ。頼めるかな」
私はスマホを取り出して、メッセージアプリを開いた。祖母とさっき交わしたやり取りを彼に示した。
『テスト終わったから、たまには気晴らしに行ってくるね。晴太と一緒だし、遅くなったら泊めてもらう。明日のお昼には帰るね』
「いつの間に…」
仙堂さんは苦笑いしている。
私は次に晴太あてのメッセージを見せた。
『ママのところ行ってくる。おばあちゃんには内緒。晴太の家に泊まることにしといて』
二人を騙すようで気が引けたが、勉強以外のことに頭を使うのはとても新鮮で楽しかった。
「晴太くんって、彼氏?」
私はぶんぶんと首を横に振った。
「そんな力一杯否定しなくても。可哀想じゃん」
睦が笑いをこらえながら言う。
「でも、信頼してるんだ」
優しい眼差しでそう言う睦に、私はこくんと頷いた。
「ありがとう。じゃあ、早速本題に入るね」
私はポテトの塩がついた指を拭いて、椅子に座り直した。仙堂さんはおもむろに話し始めた。
「そもそもこの最大の条件にかなう人が、いるとは思わなかったんだよ」
『条件その1。俺のことを知らない奴』
確かに、睦を知らない人を見つけるのは大変だろう。
「実はエキストラというか、手伝ってくれる人を探していたんだ。たまたま会った君が睦のことを知らないなんて言うから、こいつが調子に乗っちゃって」
「だって野郎よりは断然JKの方がいいだろ」
睦も笑いながら付け加える。
「老若男女問わずいくら誰でもいいったって、一緒に遊べなきゃつまんないし」
「条件その2。口が堅い人。あの時はまだ杏菜ちゃんが喋れないことに気づいてなかったけど、唇をぎゅっと結んだ顔がね、凄く印象的で」
私にはそうすることしか出来なかった。
言葉を発しても、家でも学校でも状況は悪化するばかりだったから。
「こちらの都合で申し訳ないけど、騒がれてもまずいから内緒で仕事を頼みたいんだ。明日の朝まで僕らと一緒に行動して欲しい。疲れたら夜は眠っても構わないし、危険なことはもちろん避けるけど、必要ならすぐに警察に知らせる。約束するよ」
仙堂さんも真剣だ。
私が相づちを打つと、睦が口を挟んできた。
「それで何をするかだけど、今日一日、俺とデートしてくれればいい」
明日の朝まで…?
その戸惑いが伝わるより先に、睦が言葉を継いだ。
「誓って健全なデートにします。女子高生には手を出しません。至もいるしな」
かしこまって左手を上げて宣誓するので、私も思わず笑ってしまった。声が出なくても笑えるんだと、気づいた瞬間だった。
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