コドモの意地

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コドモの意地

日が暮れてから車で出発して、東京タワーの近くから海沿いの高速に乗った。無数の明かりが煌めく夜景は、さっき見せられたジャケット写真を思い出させた。 「さあ、着いたよ」 車を停めて仙堂さんが伸びをした。 ここは…? 観覧車のイルミネーションが、夜空を彩っている。9時で閉園するこの場所を、今日が終わるまで3時間貸し切ったらしい。 「イッツ・ショータイム!」 睦が楽しそうに笑って車を降りた。 「今回は素人っぽいコンセプトにしてみようかと思ってさ。撮影は杏菜に任せるから」 私が? そんなの責任取れないよ… 「ダメならまた撮り直せばいいんだから」 仙堂さんがにこにこしながら睦を見ている。 「今日はご機嫌だな。よっぽど杏菜ちゃんが気に入ったんだな。君には迷惑かけちゃったけど」 家族はともかく、晴太以外の他人に優しくしてもらったことがないから戸惑ってしまう。いくら口は軽くないと言っても私は単に喋れないだけだし、笑顔もうまく作れないのに。 「杏菜! こっちから行くぞ」 それでも、嬉しそうに私を呼ぶ睦を見て、今はともかくこの状況を楽しもうと自分に言い聞かせた。睦の手伝いになるならなおさらだ。 私は手渡された撮影用のスマホを片手に、睦についていった。 王道のメリーゴーランドと観覧車から回ることにした。睦が白馬に跨がってバーに掴まった。私は隣にある馬車に乗って窓から顔を出し、睦にスマホのカメラを向ける。 「今だけは恋人だからな。ガチで行くぞ。杏菜もだ」 睦がこちらに手を伸ばして言う。 録画ボタンを押して睦にカメラを近づけた。私の手を掴むかのようにして、愛おしそうにこちらを見つめる彼が映っている。 こんなんでいいのかな… 男の子と付き合ったことなんてないし、撮影の専門的な技術を求められてもわからない。それでも、夜景と一緒に睦を切り取るのはとてもわくわくすることだった。
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