忘れてるよ

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「忘れてるよ」 送信しようとした。それと同時に「後でも問題無いな」とも思い、メッセージを削除した。 昨日、彼女が泊まりに来た。上京して早2週間。ようやく彼女とも会えた。 ベッドの軋む夜。帰って行った彼女は、髪を軽く結び、メイクは薄かった。 疲れた体をベッドに戻し、もう一度眠る。 昨日は彼女よりも先に寝てしまったようだが、彼女よりも寝不足だった。 その存在に気づいたのは、彼女から「家に着いたよ、また会おうね」と連絡が来た後だった。 ベッドの下の隙間にあった、水色のブラジャー。 紛れもない、昨日彼女が来ていて、僕が脱がせたものだった。 僕は手に取り、考える。なぜこんな場所にあるのか。彼女は下着無しで帰って行ったのか。 メッセージは後で送ることにする。昨夜彼女と共に失くしたはずの情欲はまだ残っていた。 持ち上げると、空気の流れに乗って柔軟剤の香りが鼻に届く。昨日も味わったものだ。 さらに確かめてみると彼女の首から香るものが、ここにもあった。 少し湿っぽく、思考を停止させる、酸味と甘みが混じった香り。 肺の中を空にし、体は空気と香りを同時に求めた。脳内に彼女がまた入り込んでくる。 入り込む彼女に唆され、鼓動が早まる。 解放感で満たされる僕を、彼女がまた包み込んだ。 「下着忘れてるよ」ようやく言えた。 返事が来る。「もう少し楽しんでても良いよ」
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