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労働局からの連絡はまだなかった。
黒木は社長室へ呼び出され桜井と話しをしていた。
「黒木、先日はご苦労だったな」
「みんなのおかげですよ。私は単にメンバーたちの頑張りを代弁したまでですよ」
「そうだな。代表として良くやってくれた。ところで俺は思うんだが、お前にもう事業部統括を任せていいと思うんだが」
「それはまだまだですよ」
黒木はかぶりを振り謙遜した。
あくまで黒木は自分の待遇よりみんなの頑張りだと思いを語った。
「だがな黒木。俺はなぁ、あの時の最終選考のプレゼンを見た時、神崎と重なったんだよ」
「本部長とですか? まだそんな器ではありませんよ」
「まぁ、聞け。あの時、俺は神崎が倒れる前のプレゼンの姿に心を打たれ取締役に推薦しようと思った。それだけこの男にテラスを任せることが出来ると思ったからだ」
桜井は黒木の目をじっと見つめた。
「そして黒木はあの時の神崎と同じものを感じた。つまりだ、それだけのこのテラスの心臓を任せていいと思った。それは今の部長から本部長に推したいと心から思えたということだ。覚えているか? 神崎が亡くなった時お前に夢を語ったことを……。お前を神崎と同じ地位に押し上げると。それをお前は叶えてくれそうだ」
しかし冷静に黒木は言葉を返した。
「待ってください、社長。その話、大変有り難いのですが、まだ労働局から連絡もありません。支援を任せて頂けるかも分からない状態です。それなのに本部長なんて」
「何か不満か?」
「いや、不満なんてとんでもない。嬉しいに決まってます。私も神崎本部長には追い付きたい一心でここまで来ました。本部長に追い付きたい。それがこのテラスでの夢です。しかし、仮に案件が取れたとしても、まだその件に関しては保留にして頂けませんか? ただ取れただけでは神崎本部長に追い付ついたとは到底思えないのです。それに私の仕事はそこで終わりではありません」
「どういうことだ?」
桜井はいぶかしく黒木に問うた。
「私たちテラスが世間に認められるような実績を上げテラスをさらに上の段階に上げるのが私の仕事と思っています。まず労働局から任せられてもいませんし、実績もあげていないのにそれを受け入れることは出来ません。ただ、もし私たちが受け入れられ認められ大きな実績をあげることが出来れば、世間から認められるようなものを叩きあげた時は、その時は社長から是非推薦をお願いします。それまでは保留でお願いします」
黒木は強い口調で桜井に懇願した。
静寂が拡がり一時の間ができた。桜井は目を伏せしばらく考えたが口を開いた。
「分かった。黒木の思いに応えよう。この件は保留だ」
桜井は黒木の熱意に押され渋々頭を縦に振った。こいつは誰よりも成長したなと思うと同時に今回のコンペティションは桜井の中で根拠のない自信がさらに沸き上がっていた。
その後、福岡労働局から連絡が入った。
支援センターの委託をテラスヒューマニティに任せるという知らせだった。黒木は重圧や困難に打ち勝ちまたひとつ階段を上った。
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