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「黒木良くやってくれたよ…… 」
桜井は黒木を労った。
「いえ、沢山の人に支えられたのでここまで来れました」
「そうかも知れない。だけどそれ、紛れもない黒木の力だよ」
桜井は椅子に深く座り感慨深く黒木を見つめた。
「なぁ、黒木今度こそ推薦受けてくれるよな」
「はい。まだまだ力不足ではありますがこのテラスの力になりたいと思います」
桜井は十分過ぎると首を振った。
「今度こそ本部長だ」
「ありがとうございます」
「長かったのか短かったのかどっちだ? 黒木」
黒木は目を閉じた。走り抜けた日々を振り返っていた。
「そんなこと分からないくらい駆け抜けましたから。この六年は本当に貴重な体験でした」
桜井は目を細めた。
「俺の夢はひとまずケリがついた。来月だな。あいつに報告に行けるな。あいつの夢も叶ったぞ」
桜井は安堵の表情を見せている。
「はい。報告に伺います。私を支えてくれた社長と私の相棒に挨拶に伺います。私が辿り着くのは社長の夢とあの人の夢でしたから」
「ほう、相棒とは大きく出たな」
桜井は大きく笑った。
「黒木本当にありがとう。そしてこれからもこのテラスヒューマニティをよろしくな」
「はい。分かりました」
黒木は深々と頭を下げ社長室を出ていった。
「さて、最後の一仕事だ。そして俺のテラスでの仕事はこれで終わりだ」
桜井はデスクから一冊のノートを取り出した。豊田から預かったそのノートはボロボロで古くなっている。懐かしさを胸にノートを広げる。ここにテラスヒューマニティの理念が書かれている。
──テラスヒューマニティ
人間らしさ思いやりそれを照らす会社でありたい──
「立ち上げ当初、豊田さんと二人で考えた社名だ。そしてこの理念は間違いなく受け継がれている」
今までのことが思い出された。豊田と立ち上げここまでやって来たこと。そして志半ばでの神崎の死、豊田社長の退任。しかしこの六年は色濃く桜井の記憶に残った。怒濤の会社人生だったなと桜井は静かに涙を流した。
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