付き合う前

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付き合う前

「なー、ゆず。ひと口ちょうだい」  寒い寒い部活の帰り道、温かいコーンポタージュを買った柚希に言ってみた。 「はぁ? 自分で買えよ」  長身の男は俺の方を見もせずに冷ややかに言い放つ。 「トモちゃん、懲りないね。柚希は潔癖だから絶対くんないって」  ケラケラ笑う友人。そうだよねぇ。俺もそう思ったんだけどあんまり美味そうに飲んでるからさぁ。 「しかもさ、トモちゃん今日もまた柚希の荷物持たされてんの?」 「う……さっき荷物じゃんけんで負けたー! 今日こそはゆずに俺の荷物持たせてやるつもりだったのにー!」 「もー、じゃんけん弱いんだからやめればいいのに。またトモちゃんから言い出したんでしょ? バカだね」 「バカで悪かったな! だってこうも連日負けてたら悔しいじゃん」  俺の背には俺のリュック、前には柚希のスクバ。  しかも中々重い。じゃんけんで勝った途端、上着まで脱いでバッグに詰めやがった。 「おい、おっせーよ。喋ってねぇでさっさと歩けよ。鈴木」  もう友達になって大分経つのに、みんなみたいにトモちゃんって呼んでくれなくて名字の呼び捨て。 「はいはい。さっさと歩きますよーだ」 「ねぇ、ねぇ。ところでトモちゃんさ、A組の子に告られたってマジ?」  柚希の荷物を持ってヨタヨタと格好悪く歩く俺に、誰かが笑いながら言う。 「ちょっ……しーっ! 声でかいっ! 何で知ってんの?!」  誰も知らないはずのことを口にした友人に、焦った俺が目をまるくして問い返す。 「やっぱホントだったんだー。付き合うの?」 「付き合わないよ、だってあんまり知らない子だもん」  いつだったか俺は、廊下でその子が重い荷物でフラフラしてるところを助けてあげたらしい。  でも全然覚えてないんだよね。  校内で荷物沢山持っててフラフラしてる人がいたら、誰だって手伝うでしょ?  特段変わったことしたわけじゃないから、覚えていない。 「結構可愛い子みたいじゃん。何でともちゃんなんだろ」 「何でだろってシっツレーだな」  俺がむくれると、みんなは笑った。 「柚希くらい格好いいと恐れ多いけど、トモちゃんだとちょっと手が届きやすい感じがいいのかな?」 「もっとシツレーだな! おい!」  怒った声を出した俺のことを。 「ほんと、鈴木って子供っぽいよな。こんな子供に告る女とか趣味クソわりぃ」  柚希はそう言って意地悪く笑い飛ばしたくせに。
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