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* * *
「やっぱり、あの船すごいよなぁ」
遠のいていく巨大魔力翼船ユニヴェルソ号を見上げ、一人の騎士団員が感嘆の声を漏らす。
「一度でいいから乗ってみたいなぁ、俺、実は魔力翼船ってのに、一度も乗ったことないんだ」
「へえ、俺も乗ったことないよ、あれに乗って地上を眺めるって、どんな気分なんだろうなぁ」
「僕は乗ったことがあるよ! すごいよ、みんな豆粒みたいに見えるんだけど……世界ってどこまでも続いていてさ!」
そう数人が話していると、別の騎士団員がやってきた。
「お前達! 仲良く話すのはいいが、片付けと出立の準備を始めておけよな」
「ええ? どうしてですか? 巨大蠅を引き渡して、これで本当に一仕事終わったところなのに……」
まだ少年の面影が残る若い騎士団員が、その屈強な騎士団員に口を尖らせた。屈強な騎士団員は、
「よく聞け新入り……あの巨大蠅は、まだ大陸のどこかにいるんだ。休んでいる暇は、そうないのさ、わかるだろう? ……きっと隊長達は、魔術師達から新たな巨大蝿出没の情報を得たに違いないから、捕獲しにまた旅を始めなくてはいけない。そのためにも、いまから準備をしておくんだ。休憩は……その後にしろ!」
はーい。わかりました。とそれぞれが返事をし、渋々始める者もいるが、彼らはまず片づけを始める。散らかっていたものを整理し、荷物をまとめ、もしすぐに旅立つと言われた際に、最低限の行動で済ませられるよう、準備をする。その中でも魔力翼船の話をしたり、これが終わったら稽古をつけてくれなんて話したりすり者もいる。
そこへ、声がかかった。
「すみません――巨大蠅を捕まえている騎士団というのは、あなた達ですか?」
騎士団員達にとって、それは聞きなれない女の声だった。皆が手を止め、顔を上げる。
木々の向こうから、女が一人、歩いてきていた。焦げ茶色の長い髪を後ろで結っている。橙色の瞳を瞬きさせれば、片耳にある黄色の耳飾りが揺れた。
ぴぃ、と森の中から鳥が鳴き声をあげる。女が腕を伸ばせば、飛び出してきた一羽の鷹がその腕にふわりと止まった。
「詳しい話を聞きたい……私、巨大蠅を追っていまして」
それから、と彼女は続ける。
「それから、青い蝶を連れた紫色のマントの魔術師も探しているのですが……見たこと、ありませんか?」
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