第五章 神亡き闇にて

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 * * * 「お願いします。ネトナさんなら、魔術師達と連絡がとれるでしょう? だから、呼び戻してほしいんです!」  薄暗いテントの中、簡素なテーブルに両手をつき、アーゼは声を荒らげる。いま、ミラーカはまるで事がどう進むのか見守ろうとするかのように、高く積まれた木箱の上にとまっていた。 「却下だ」  アーゼに対し、テーブルを挟んで向こう側に立つ女は、腕を組んで冷たく言い放つ。金色の短い髪はふわりと広がっていて、後ろから見れば可愛らしく思えるかもしれないが、その姿はまさに騎士といった服装。決して長身とは言えない背丈だが、片手で持つことは不可能であろうほど大きい剣を背負っていて、まるでそれを背負うために生まれてきた、というようにそこにあった。そして向かって右側には眼帯を。残された瞳は金色で、見たものを突き刺すかのような鋭さを秘めていた。  彼女こそがこの『風切りの春雷』を率いる隊長ネトナだった。 「友人が連れて行かれたとはいえ、お前の話は信じられない、アーゼ。よって、お前の頼みは聞けない」  ネトナは一つも動じず、アーゼを睨む。 「それほどに言うのなら、まずは魔術師達が我々を騙しているという、確かな証拠を出すんだ」  そう言われると、アーゼはもう言葉が出なかった。物的証拠はなにもない。  しかし、魔術師達は自分達を騙していて、パウは連れ去られてしまったのだ。  アーゼが言葉を探し続けていると、ネトナが深く溜息を吐いた。  そこでテントの奥から声がする。 「――んでもさぁ、考えて見りゃさぁ、あいつらが本当に味方だって証拠もないわけじゃない? ネトナちゃんはそのあたりどー考えてるぅ?」  埋もれるようにして荷物を漁りながら、何か作業していたのであろう男が顔を出す。濃い青の髪に、子供っぽい黄緑色の瞳。騎士団員にしては少し軽い服装だが、それでも彼が『風切りの春雷』の副隊長エヴゼイだった。  エヴゼイはアーゼを見据えればへにゃりと笑う。 「……ま、あいつらが僕達を騙してるっていう方が信じられないかぁ。あいつら、僕達を助けてくれてるのは確かだし? 青年、ネトナちゃんを動かしたいなら、まずは証拠集め! 証拠集めだよっ!」  しかしそんな時間があるのかすらもわからない。連れ去られたパウがどうなるのか、何一つわからないのだ。  少なくとも殺されることはないと思うが、相手は人間を人間と見ない人物達である。そして一つ気がかりなのが、ミラーカがここにいる、ということ。青い蝶がいないとなると、それを連れていたはずのパウに、果たして彼らは何をするだろうか。 「……わかりました」  考えた末、アーゼは身体を起こし直立する。  どうしたらいいかわからない。だが、どうにかしなくてはいけないのだ。 「それなら、俺は一人で助けに行きます」  高速で考える。  ――彼らは魔力翼船を拠点にしているようだが、常に空にいるわけではないはずだ。地上に近付く隙をつけば、入れるかもしれない。  ――それに、自分自身だけでは空を飛ぶことは不可能だが、どこかで別の魔力翼船に乗れたのなら、そこから彼らの船に飛び移れるかもしれない。  どこに行った、という事に関しては、不安を抱かなくていいだろう。何せ巨大魔力翼船。存在は目立つ。  ……もしかすると、案外地上に接近する機会は多いかもしれない。彼らはデューの魔術師を騙っている。それならば人々を助けるような行動をするかもしれない。
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