第五章 神亡き闇にて

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「勝手な行動は許さないぞ」  ところがネトナがさらに瞳を鋭くさせる。テーブルに広げてあった地図を軽く叩く。 「我々は、魔術師達から貰った情報をもとに、新たなグレゴを捕獲しに行かなくてはいけない……お前は騎士団を抜けるつもりか?」  単独行動は許されない。パウを追うには、騎士団を抜ける必要がある。  それでも。 「……友人のためなら。正しいことのためなら」  パウを助けに行かなくてはならない。そして自分達が騙されている証拠を見つけ、敵の姿を露わにしなくてはいけない。  薄暗い中、アーゼの瞳とネトナの瞳が衝突する。それ以上、二人は何も言わず、ただエヴゼイだけが困ったような笑みを浮かべて二人を見つめていた。  ――妙に、外が騒がしい。  そのことに、まずはエヴゼイが気付いた。自然と顔を上げる。続いてネトナがテントの入り口を警戒し、視線をそちらに向ける。最後にアーゼが気付いて、気配を感じて振り向いた。 「――魔術師は! 紫のマントの、杖をついた魔術師は!」  アーゼが振り返ると同時に、外から一人の女が転がり込んできた。肩には器用に鷹がとまっていて、アーゼは驚いて数歩のいてしまった。  乱入してきた彼女は勢いのままに目前のテーブルに両手をつく。そしてアーゼを見て、ネトナを見て、エヴゼイには気付かなかったようだが、ネトナが隊長であると認めたらしい。 「あなたがここの隊長? さっきここに、パウっていう魔術師がいたはずなんだが! いま、彼はどこに……!」 「――あれぇ? 『千華の光』だぁ。しかもその鷹……使い魔か!」  と、エヴゼイが興奮したように立ち上がる。それから、 「お前も例の魔術師に関してかぁ、なんだかあいつ、人気だなぁ」  乱入してきた女は、ネトナの返事を待っていた。けれどもネトナは顔を顰めて何も答えなかった――そもそもパウの話はネトナまで上がってはいない。アーゼがパウについて話したのは、エヴゼイまでだった。  そこでやっと、アーゼは我に返った。 「お前、パウの知り合いか?」  エヴゼイの言った通り、耳飾りがあることから彼女は『千華の光』なのだろう。もしかしたら。  彼女は少し噛みつくかのように尋ね返す。 「お前! パウを知ってるのか! 奴はどこに――」 「さらわれた! 連れていかれたんだ、『遠き日の霜』に!」 「……『遠き日の霜』……それって、デューを制圧し、あの巨大蝿を作った奴らだよな……?」  途端に女はひどく混乱したように目を見開く。 「パウは『遠き日の霜』ではない……? でもあいつと奴らには絶対何か関係があるはず……。それに巨大蝿との関係は……」  突然独り言ち出したかと思えば、次の瞬間にはアーゼの腕をがっ、と掴んでいた。  どうやら彼女は、見た目から思われる以上に力が強いようだった。ぐいとアーゼは引っ張られる。 「連れて行かれたって、どこに! あいつが全てを知っているはずなんだ! とにかくあいつを見つけないと……!」  怒鳴られアーゼはまた目を白黒させてしまうが答える。  ――この様子、恐らく彼女は『遠き日の霜』ではない。 「魔力翼船に連れて行かれた! 巨大魔力翼船ユニヴェルソ号に!」  彼女の腕が離れた。彼女は額に手を当てると、ひどく悔しそうな表情を浮かべていた。 「あれか……途中で見たあの影か! ああくそ……ただの魔力翼船だと思って、全然気にしてなかった! 追わないと……!」  そうして彼女は、名乗ることもなく、外へと飛び出していった。急にテント内は静かになる。残された三人は、唖然としたままだった。
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