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「……何だ、彼女は。嵐のようだったな」
最初に我に返ったのは、ネトナだった。続いてその言葉にアーゼもはっとして――外へと向かう。
「待て! どうする気だ!」
とっさにネトナが制止する。アーゼは振り返れば、
「彼女、船を追うつもりです! だから俺も行くんです! よくわからないけど……」
あの女はパウを探している。「追わないと」とまっすぐに出て行った。
その様子からわかる――彼女は追える手段を持っている。
「だから勝手に動くなと――」
ネトナが怒りの混じり始めた声を響かせる。しかし。
「まあまあまあ、落ち着いて落ち着いて、もういいでしょ」
エヴゼイがとたとたとやって来て、まずはネトナの前に立ち両手を見せた。するとネトナは言葉を呑み込んでしまって、エヴゼイは次にアーゼへ向かう。
「よし……わかったよ、頑張ってきなよっ!」
まるで気合を入れるかのように、彼はアーゼの背を叩く。アーゼはきょとんとしてしまったが、その間にミラーカがテントから出て行くのを見て、追って外に出た。
「……どう思う?」
アーゼがいなくなって少しして、ネトナが溜息を吐く。
「逆にネトナちゃんはどう思うわけ? アーゼくんの言ったあれこれ」
エヴゼイは尋ね返す。
ネトナは目を瞑れば、腕を組んだ後に、答える。
「……あの魔術師達が、我々を騙している。アーゼの言った可能性を疑わなかったことを、少し後悔している」
「ふむふむ?」
「巨大蝿を決死で捕まえた我々は、それで精一杯だった。そこに助けの手が差し伸べられたのだ……疑う余裕すらもなかったが……彼らはあのグレゴを弱らせる魔法薬を持っていた。そこに、疑問を抱くべきだった。研究したから魔法薬を作れたのではなく、彼ら自身が巨大蠅を生んだからこそ、弱らせる手段を知っているのではないか、と……」
「ほうほう?」
エヴゼイは椅子にふんぞり返れば、頭の後ろで腕を組んで笑う。
「まぁー様子見てみようかねぇ……僕の魔法道具は最高なんだ、知ってるだろぉ?」
その手の中に、小さな円盤を握っていた。
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