第五章 神亡き闇にて

30/41
前へ
/340ページ
次へ
 * * *  空の青色は、海の青色とはまた違う。その中を、まるで巨大な魚のように進む影が見えてきた。 「見えてきた……!」  メオリの後ろ、シトラに乗ったアーゼは、横から頭を出す。その声に呼応するように、四足の鳥の獣は、翼を大きく羽ばたかせぐんと進む。 「よしよし、追いついた……けど、ここからどうしたものか……」  不意にメオリが険しい顔をする。パウを乗せた船はもう目の前にある、明るい顔をするべきだというのに彼女が急に悩み始めたものだから、アーゼは首を傾げる。 「何か問題があるのか? あの船に乗り込んで、パウを見つければいいだけの話だろ?」 「……簡単に侵入できたらな」  巨大な魔力翼船ユニヴェルソ号。魔法陣の翼は、風を纏って先を泳いでいる。 「ユニヴェルソはただの魔力翼船じゃない。技術の結晶だ、あらゆることに備えて、あらゆる技術が詰まってるって師匠が言ってた……あれは、魔力の盾に覆われているんだ、外からの攻撃に備えて。そして外敵を侵入させないために」 「このシトラじゃ、入れないってことか?」 「なんでこんな話をしてるのか、あんたはわからないのか?」  シトラは魔力翼船から一定の距離を保ったまま、飛び続ける。 「……ま、入れなくはないけど。でも侵入できたとしても、あの船は敵陣だ、どこかにいるパウを急いで見つけ出さなくちゃいけないし、素早く脱出しなくちゃいけない……何より、ベラーがいるんだろう、あの船」  グレゴの話こそ、アーゼは部分的にしかメオリに話さなかった。残りはパウ本人が話すべきことだとして。けれども、今日、パウに何が起きたのかについては全て話していた。 「どんな魔術師も、ベラーを相手にしたくない。その中でも特に私みたいな使い魔を使役する魔術師にとって、奴のあの黒い水晶は恐怖でしかない……そもそもそれ以前に、ベラー以外の魔術師も乗ってるはずだ……」  隠密に侵入するのは不可能だと、メオリは気付いていた。魔力の盾があってもなくても、あの船に忍び込むには、船体に穴をあけて入る必要があるだろう――外壁を攻撃されたのならば、相手はすぐに気付くはずだ。  パウがあの船のどこにいるのか、それがわかっていたのなら。そこへの最短ルートとなる穴をあけてパウを救出、素早く脱出できるのだが。 「――お、おい! 待て!」  唐突にアーゼが慌てたような声を上げた。とっさにメオリが振り返れば、アーゼのポケットから、青い蝶が抜け出そうとしていた。ついにするりと抜け出して、煽られるようにしてぶわりと宙に舞い上がる。 「ちょっと!」  メオリの声は悲鳴に変わる。ここは空。しかもシトラに乗って空を飛んでいる中だ。離れてしまった青い蝶は、宙に置いていかれる。  ところがその次の瞬間――世界が凍りついた。
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加