第五章 神亡き闇にて

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 まるで時間の流れが凝り固まってしまったかのようで、メオリとアーゼは息を呑んだ。風が止む。空の青色が失われる。魔力翼船も白黒と化す。音も温度も消え失せ、まるで世界は白黒の絵画となる。  その中で、色を纏ったものがたった一つ。 「あそこ」  唯一、ふわふわと普段通りに羽ばたく青い蝶は、シトラの隣まで戻ってくる。その翼がより一層強い輝きを帯びて、青色が弾ける。  空の色とも、海の色とも違う青色。  シトラの前に、まるで広がるかのように青い花の道が生まれた。蛇のように伸び、魔力翼船へ進む。青い花は生まれた瞬間こそ、蝶と同じ輝きを宿していたものの、咲き誇るのは刹那のみ、直後にどろりと溶けて消えていく。  けれども泡沫の道は魔力翼船に迫り、その盾を突き破った。波打って、船を包んでいた球体が一瞬だけ姿を現し砕けていく。そしてついに青い花は外壁に衝突し、そこで果てた。 「パウ」  蝶が呼ぶ。 「いま行くわ」  少女が囁く。  ――弾けるようにして、空の青色が戻ってきた。音も、冷たさも。時が滑らかさを思い出す。  驚きに目を丸くしていたシトラが、小さな悲鳴を上げて我に返る。うっかりしていたのだろう、一瞬がくんと落ちるものの、再び羽ばたき出す。 「いまのは……?」  アーゼがまだ夢が覚めていないかの様子で空を見つめる。と、気付いてポケットを見れば、いつの間にか戻ってきていた青い蝶が、いそいそと中に戻っていた。 「さあ、わからない……あんなのは、初めて見た……」  メオリも目覚めたばかりのような声で返事をする。しかし。 「でも、その青い蝶が何をして、何を伝えたのかはわかった……パウはあそこだ」  いまはない花の道を、シトラが進みだす。本来なら魔力の盾があり触れたのなら弾かれるものの、易々と船に迫っていく。 「捕まれ、アーゼ! 突入するぞ!」  メオリが声を張り上げた。シトラの身体が輝き出す。 「いいか、パウを見つけたら救出して、すぐ脱出――余計なことをするなよ!」  外壁は目前。アーゼは剣を抜き身構えた。  光を纏ったシトラが、外壁に向かって叩きつけるように羽ばたいた。生まれた輝く風が、大きな音を立て爆ぜる。その爆発にシトラは飛びこんだ。
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