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「可哀想に。足も悪くしているようだし、不便だろうね」
「し、師匠、やめて……」
視界が奪われたものの、何をされようとしているのか、パウは気付いたらしかった。震えていた身体が、より恐怖に捕らわれて硬直する。見えないはずの右目は針の切っ先を見つめていた。
「嫌だ、師匠……お願い、やめて……やめてください……」
恐怖のあまり、涙も出ないようだった。瞳だけが小刻みに震えている。
「やだ……やめて……師匠、やだ……」
胸が呼吸に大きく上下していた。叫び続けた喉は、呼吸の度にひゅうひゅうと鳴る。そんなパウの耳元でベラーは囁く。
「パウ……蝶はどこにやった?」
パウはしばらく答えなかった。ただ恐怖に忘れそうになる呼吸を、必死にしているかのようだった。
やがて、掠れて聞き取るのも難しいほどの答えが返ってきた。
「知らな――」
――言葉が終わる前に、ベラーはパウの瞳に針を突き刺した。
「あああああああああぁぁぁっ!」
血を吐くような悲鳴。パウの身体は何度も大きく跳ねた。手足がもがくものの、掴むものも何もない。
「ぅああぁ……! がっ、あ……、ふ、う、うぅっ……!」
頭を振れば、涙と涎が散った。そこを、ベラーは再び顎を掴んで無理矢理に押さえつけ、また針を構える――黒色に染まった顔の右側、その瞳に向かって。
「やだっ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」
泣きながらパウは暴れるものの、ベラーは押さえつける。
「もうっ、もうやめて、師匠! お願いです……お願いだから……っ!」
「答えるまでやめられないよ……青い蝶はどうした?」
もう一度質問する。嗚咽を漏らすパウは、悲鳴を上げながらも息を呑み、目を固く閉じようとしたものだから、
「こら」
パウの左目を覆いつつ顔を押さえていた手を右目へ持って行き、押さえつけながらも指で無理矢理瞼を開かせ、固定する。
「さあ、青い蝶は、どうしてしまったんだい?」
ついにパウが息を止める。見える左目が、右目を狙う針を捉える。漏れ出る声も震えていた。
それでもパウは。
「――知らない!」
――再び右目に針を突き立てる。今度は短い悲鳴を上げて、パウは電気が流されたように大きく身体をそった。そして脱力し、うなだれる。わずかに開いた口からは涎が垂れてしまっていて、また閉じられなかった瞳は濁って、そこに意識はなかった。ただ嗚咽のような声を漏らし続け、身体は痙攣しているかのように小刻みに震え、時折びくん、と大きく震える。
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