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アーゼとメオリが短い悲鳴を上げる。青い光は弾けて消える。蝶の細い身体は裂かれてしまった。薄い羽も衝撃に千切れてしまっていた。青色は彩度を失い、美しかった蝶は枯れた花のように落ちていく――。
「青い蝶」
宙でばらばらになってしまった青色。その正体に気付いて、ベラーが片手を伸ばす。
だがその指は、青色に触れることもなかった。
何故なら。
「――ミラーカ」
見るも無残な姿になってしまったそれに、黒く染まった両手が差し出される。
「ミラーカ……!」
パウが両手で包むように、蝶の残骸を受け止めた。そして抱きしめるように胸の前に持っていき、目を閉じる。
その様子を、ベラーは言葉を失って見つめていた。
――誰よりも早く我に返ったのは、メオリだった。
「――何やってるんだ!」
壁の穴から激しく風が吹き込む中、メオリの怒声が響く。彼女はパウを小脇に抱えれば、次に、立ち上がったアーゼの襟首を掴む。
そして転がるように、壁の穴から外へと飛び出した。空の冷たい空気が三人を包む。重力に従い、落ちていく。
はるか上空。アーゼが悲鳴を上げていた。しかしその下にシトラが滑り込めば、自身を中心に球体状に魔法の風を放つ。その風に、落下していた三人は受け止められる。疑似的な無重力の中、メオリはパウをアーゼに押し付け、シトラにまたがる。アーゼも我に返って、パウを抱えるように支えつつも、メオリの後ろに乗った。
三人が乗った瞬間、シトラは勢いよく駆けだした。
「シトラ、お願い! 速く、速く……とにかく逃げるんだ!」
必死の主に急かされて、四足の鳥は嘶きより羽ばたく。と、彼女はアーゼへ振り返り、風に負けない程の大音声で怒鳴る。
「パウを見つけたらすぐに逃げる! そう言っただろ!」
「ごめん」
アーゼは謝るしかなかった。ベラーを見た瞬間、許さずにはいられなかったのだ。そしてまさか一撃で剣が折られるとは、思ってもいなかった。
メオリは後方を確認すれば、更にシトラを急かす。
「一番会いたくない相手がどうして……! 追ってきてない? もし奴が魔法を放ってきたら、シトラが消されちゃう……! ああお願い、シトラ、頑張って急いで……!」
主はひどく焦っているものの、そんな彼女を励ますかのように、シトラは勇ましく鳴く。そしてより力強く羽ばたけば、巨大魔力翼船から距離をとる。
「……パウの様子は? それから青い蝶は?」
焦ってはいるものの、メオリは再び振り向く。
「……多分気を失ってる。でもこれは……何なんだ?」
アーゼがパウを見れば、パウは目を瞑って、苦しそうに表情を歪めていた。その顔の半分は黒く、また手や腕、見える肌にも黒く焼けたかのような跡がある。出血はないようだが、恐らくこの黒色が彼を蝕んでいるのだと察する。
そしてばらばらになってしまった青い蝶はどうなったのかと、アーゼがパウの手を見れば。
「……元通りになってる」
包むようにあわせられていた両手。そこから触角が出てきたかと思えば、完全な姿でミラーカが這い出てくる。身体は元に戻っていて、翼にも破けた箇所はなく、青色に曇り一つない。
ミラーカは風に飛ばされないようにしがみつきながらも、パウの胸元まで這っていた。辿りつけば、ふわりと光を放つ。何かしている。その光、青い羽が時折黒くなる。それと共に、パウの身体にあった黒色が消えていく。
「吸ってるのか……」
アーゼは唖然としてしまった。
やがてパウから、黒色が全て消え去った。表情もいくらか柔らかくなったものの、彼は未だに目を覚まさなかった。ミラーカも胸元にとまったまま、そこから動かなかった。
そして、追手の姿も見られなかった。巨大魔力翼船は小さくなって、空の彼方に消えていった。
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