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使い魔の背に乗った三人の姿が遠のいていく。空の青色に消えていく。その様子を、ベラーは風に吹かれながら見つめていた。
壁にできた穴の端が、光りはじめる。光はゆっくりと広がっていき、穴を塞いでいく。ユニヴェルソ号の魔法。己を修復していく。
「――追わないのかね」
声をかけられ振り返れば、老齢の男が立っていた。
かつてデューで『天の銀星』と呼ばれた一人であり、『遠き日の霜』をまとめる長、フォンギオだった。
「……逃がしたところで、そう問題ないでしょう」
ベラーは再び空を見つめる。穴は徐々に小さくなり、空は狭くなっていく。
「それで興味深いことは何か聞き出せたか?」
「ええ、非常に面白いことを……ただ全て知るには苦労しそうです」
すると、フォンギオは隣に並んで言う。
「ならば脳を開けてみるか?」
「……それは最終手段でしょう。脳を無理矢理開いたならば、今後彼は使い物にならなくなってしまう」
廃人同然となり再起不能になること、またその才能が失われたり、取り返しのつかない大きな傷がついたりすること。それはベラーにとって、もっとも避けたいものだった。彼は生きていたのだから。
――彼を弟子にする気は一つもなかった。
彼は自分の思想とは、全く逆のものを持っていたから。
だから弟子にしたのならば、苦しむのは自分だとわかっていた。彼は才能があるにもかかわらず、自分と同じ道を歩いてはくれない。
……それでも弟子にしたのは、その才能が他の者に渡るのが許せなかったためだった。またいい加減な魔術師の下で、その才能が腐る可能性があるのも見過ごせなかった。
「お前はあの弟子に期待しているのだな」
もう見えない弟子の姿を、それでも見続けていると、フォンギオが笑った。
「彼は私達に光を見せてくれましたから」
彼は、まだ自分の見たことないものを、そして自分が望むものを見せてくれる。そう信じたかった。
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