小さな豆桜と銀色の土地神の溺愛

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 二年後ーーー。  「フユ様。おやすみなさい 」  「あぁ、おやすみ。俺の豆 」  夜は毎日、フユ様のお布団で一緒に眠る。それは豆がここに来た夜にフユ様が決められた事。  初めての夜、用意された部屋は、豆にとってはとても広くて、大きくて、一人で寝かされるのは怖かった。花圃(カホ)での寝室は大部屋で、いつも隣りには、霞姉さん達がいたから。  寝付けずに、シクシクと泣いてしまっていた豆の声を聞きつけて、「どうした? 」とフユ様が部屋へ来てくれた。  泣いている豆を見て驚いたフユ様は、話を聞いた後、「気付かなくて悪かった 」と豆を抱き上げ、フユ様のお部屋へと連れて来てくれた。  一つしか無いお布団に一緒に入り、包む様に抱き締めてくれる。  「一緒に、寝てもいいのですか? 」  「どうしてそんな事を聞く? 」  「だって、豆はそんなに小さい子ではありません 」  赤ちゃんみたいですと言うと、「豆は、可笑しな事を言うね 」と、フユ様が笑った。  そして、「豆は俺の嫁になるのだろう? 夫婦は一緒の布団で眠るものだよ 」と言うものだから、そういうものかと安心して、豆はフユ様に抱き付いた。  それからは、お仕事や花圃(カホ)に行かれて、フユ様が居ない時以外はずっと一緒に寝ている。    優しく回される腕。包まれると温かくて、ふわっと直ぐに欠伸が出る。  知っていますか、フユ様。  豆は心の中で問いかける。  豆はもう、フユ様が居ないと眠れないんですよ? フユ様の居ない世界なんて考えられないのです。  「豆? もう寝たのか?」  寝息を立て始めた豆を見て、フユは苦笑する。  自分が居ない時、豆の眠りが浅く、次の日はぼんやりとして、食欲も無いことはオオバから報告を受けていた。  働き者で、明るく素直な豆は、屋敷の者からとても愛されている。だから、泊まりの仕事だと言うと、口には出さないが、豆を心配する家人達から、フユは渋い顔をされてしまうのだ。    「どうして、こんな俺なんかが良いんだか…… 」  花屋敷で、熱の籠った視線を感じる様になったのはいつからだったろう。  自分が表情に乏しく、言葉が上手くないのは自覚がある。ましてや、治める土地が花達にとって厳しい環境なのも。そんな自分に花達が向けてくる視線は大体が、畏怖と恐れの混じったものなのに、その視線だけは違っていた。  物好きもいるものだと、好奇心で視線の元を辿ってみれば、それは可愛い小さな桜の精だった。  まさか、桜だったとは……。  驚く自分と目が合って、気付かれたと分かったその子は、「ぴゃっ!」と変な声をあげて走り去った。その後、声を出して笑ってしまい、以南の土地神に珍しがられた事を思い出す。  フユは、そっと柔らかな髪を払うと、豆の丸いおでこに口付ける。    スヤスヤと眠る豆の寝顔を、毎晩愛おしそうに土地神(フユ)が眺めていることを、豆は知らない。
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