小さな豆桜と銀色の土地神の溺愛

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 四年後ーーー。  「俺と一緒に見廻りに行かないか? 」  ある日、豆はフユにそう言われた。  「豆が、お仕事に付いて行ってもよいのですか? 」  そう聞くと、「今は気候も随分といい。俺が豆を連れて行きたいんだよ 」  嫌かい? と聞かれて、ブンブンと首を振る。土地神の仕事は、自分の土地の隅々まで目を行き届かせて、必要な場所に加護を与えること。そうやって、天地万物を守っているのだ。  その仕事を見せて貰えるなんて、まるで……。  「行きたいっ!……です 」と返事をすると、フユが嬉しそうに笑った。  「じゃあ、明日行こうか? 」  そう、約束したのに、豆は次の日、体調を崩してしまった。  「また、次の機会があるよ 」  フユはそう言ったけれど、フユがそれから誘ってくれることは無かった。  そして、その理由を豆は知ってしまった。  『やはり、この環境に慣れたといっても、豆桜ですからねぇ 』  心配してくれているからとは分かっているが、偶然聞こえた家人の言葉に、豆は悲しくなる。そして、花屋敷で以南の土地神に言われた言葉を思い出した。  小さいのは別にしても、『桜』では、なぁーーー。  桜だから、駄目なのだろうか。桜だから、ここで花を咲かせられないのだろうか。  ポトポトと零れた涙が、独り寝の枕を濡らす。  だけど、初めてお逢いした時から、ずっとお慕いしているのです。  フユ様以外の土地神様のお嫁になんかなりたくない。  花の精なら、誰でも、何よりも自分の花を綺麗に咲かせたいと願う。だが豆は、その願い以上にフユの側に居たかった。  花を咲かせることが出来なくて、フユ様以外の所へ行けと言われるのなら、いっそのこと枯れてしまおうと思うくらいに。  
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