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とある国の話をしよう。
昔々あるところに「世界で一番誠実な王」と言われる王様が治める大国があった。
その国では「嘘」が殺人にもまさる重罪であり、もし嘘を吐いてバレればその者は情状酌量の余地なく極刑、だから全ての国民が真実以外を口にせず、ゆえにその国も「世界で一番誠実な国」と呼ばれていた。
「王様、おはようございます」
「今日の警護担当はアレンか。ご苦労」
「お身体の方はどうですか? 先日、城に医者の訪問があったと存じますが」
「問題ない。ただのいぼ痔治療だ」
「今も痛むのですか?」
「いきむと少しな」
「お大事にしてください。それと、本日も誠実なご回答、ありがとうございます」
そんな誇り高き国で、宮廷に衛兵として仕えるアレンという男があった。
金髪碧眼の精悍な青年で、年の頃なら一八ほど。誠実な王様を誰よりも深く慕う信奉者であり、彼自身もまた誠実さが服を着て歩いているような人物だった。
王様の方でも彼の人柄と献身性は高く評価しており、若くして一個隊の隊長の地位を与えるなど、将来国を支える力として大いに期待をしていた。
またアレンには二歳下の妹があった。名をニーナといい、アレンと同じ碧眼と三つ編みにした赤毛、そしてそばかすがトレードマークの愛らしい少女だった。
いつか宮廷料理人になりたいという夢を持つニーナは、兄と二人宮廷近くの宿舎に住んでいた。ちなみにその宿舎は本来衛兵しか住むことができないのだが、幼くして両親を亡くしているという事情とアレンの日頃の功労を鑑み、特例としてニーナの入居も許可されていた。
二人は宿舎に住む中でも特に若いとあり、他の衛兵たちから可愛がられ、大切にされていた。
「やぁニーナ! ……お兄さんは今日確か、身辺警護の担当だっけ?」
「こんにちはサムスさん! そうです! 朝早くに出て行きました!」
「……そ、それじゃあ、あのぉ……」
「なんですか? サムスさん」
「も、もし良ければ今から、僕とデートしてくれませんかっ!」
「ごめんなさい!」
「がーん!!! ……ちなみに、理由は?」
「顔があまりタイプじゃないから!」
「せ、誠実な返事、ありがとう……」
実はニーナはその天真爛漫さと料理上手という家庭的一面から絶大な人気を博していて、遠巻きに憧れの眼差しを送るものも少なくなかったのだが、本人が気付いていたかは怪しいところだ。
とにかく、両親はいなくても敬愛する王様と素直で可愛い妹に恵まれ、アレンは幸せに暮らしていた。ニーナも同じだ。
愛すべき平穏な日々。誠実にさえ生きていればそれがずっと続いていくはずだとアレンは信じていた。
しかし神は二人に試練を与えた。
ニーナが日課である料理の練習中、病に倒れたのだ。
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