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俺と伊吹は、生まれた時からの幼馴染だ。
家は隣同士で、出産時期も近かったことから母親たちが仲良くなり、それ以来家族ぐるみの付き合いをしている。
小さい頃は、俺の方が伊吹より背が高く、伊吹はいつも俺の後ろを追いかけていた。
小学校に入学してから、俺がサッカークラブに入るとそれを聞いた伊吹もサッカークラブに入ってきた。
その後、中学に入学した時くらいだっただろうか。
急に伊吹の背が伸び始めたのは。
それ以来、俺は伊吹に何も追いつけずにいる。
身長も勉強も容姿も……。
だからせめて、得意なサッカーだけは伊吹に負けたくない。
そう思って、毎朝朝練に励んでいるのだ。
それなのに……。
俺は今日、伊吹に負けた。
こんな悔しい事があるか。
(何でも持っていきやがって! 伊吹のバカヤロウーーー!!!)
俺が心の中で叫んでいるのも知らず、伊吹は普通に俺に話しかけてくる。
「待てよ、翔」
「なんだよ、伊吹」
「一緒に帰ろう」
低音イケボが、俺に優しく語りかける。
少し笑った綺麗な顔のオマケ付きだ。
「お、おう。いいよ」
結局、俺はいつも伊吹の言う事を聞いてしまうのだ。
頑張れ、俺……。
☆
伊吹と並んで、夕暮れの帰り道を歩く。
夕飯のいい匂いが街に溢れ出すこの時間が俺は好きだ。
「なあ翔、なんか食ってかない?」
「そうだな。試合したからすげー腹減ってるし、どっか寄ってくか」
俺はそう言いながら、スマホを取り出して家に電話を掛けた。
「あ、姉ちゃん? 俺、今日伊吹と夕飯食ってから帰るから。母さんに言っといて」
俺が電話を切ると、伊吹は面白そうに俺に尋ねた。
「沙知さん、今日はデートじゃないんだな」
「姉ちゃんも毎日男に会ってるわけじゃねーよ。てか、お前に姉ちゃんの彼氏の話した事あったっけ?」
「いや、ないけどたまに夜見かけるからさ」
俺の姉の沙知は、美容関係の専門学校に通っている。
最近、男が出来たらしく、いつも楽しそうに出掛けていくのだ。
伊吹がバイトで帰りが遅くなった時に、デート現場を目撃したらしい。
ったく、お気楽なもんだ。
俺は、道端に落ちている小石を軽く蹴り上げた__。
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