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3
次の日。
俺はクラス当番のため、職員室で担任から渡された大量の書類を教室まで運んでいた。
隣には、一緒にクラス当番をしている夏目弥生が同じく大量の書類を抱えている。
「なんなんだよ、この量。重ッ……。夏目さん、大丈夫?」
「う、うん。重いよね……」
弥生は、書類の重さで今にも書類を落としそうだ。
その時、弥生の手から急に書類の山がなくなった。
「えっ?」
驚いて弥生が上を見ると、そこには見慣れた男、伊吹が書類を軽々と抱えて立っていた。
「あ、伊吹くん……。ありがとう」
伊吹の顔を見ると、弥生の頬はほのかに赤くなっていった。
「これは俺が運んどく。夏目さんは教室に戻っていいよ」
イケメン低音イケボが優しくそう言うと、弥生は嬉しそうにお礼を言って教室に戻っていった。
(おいおい、イケメン野郎! 俺の立場がないだろう!)
教室に戻る弥生の後ろ姿と目の前にある伊吹の顔を交互に見ながら、俺は書類の重みに一人耐えていた。
☆
昼休み。
「翔ぅ! ちょっと来てよ!」
廊下から聞こえるこの声は、隣のクラスの木下園香だ。
園香は、一年の時同じクラスで席も隣同士だった。
サバサバした性格で、俺とは結構気が合うのだ。
「なんか用か? 園香」
「日本史の教科書忘れちゃって。貸してよ、翔」
「はぁ、しょうがねーなー。ほらよ」
俺が教科書を渡すと、それを受け取りながら園香は俺の教室を見渡した。
「ねえ、今、伊吹くんいる?」
「伊吹なら図書室にいると思うぜ」
「そっか、良かった」
園香は、伊吹がいないことを知るとなぜか安心した様子だ。
「何でそんなこと聞くんだ?」
「だってー。翔と話したくてもさ、いつも近くに伊吹くんがいるんだもん」
「はぁ? そうか?」
俺が不思議そうにそう答えると、園香は呆れたように言った。
「もしかして、気付いてないの?」
信じられない、というふうに園香は首を横に振った。
「いつも翔の少し後ろから見守ってる感じ? 幼馴染に愛されてるよね、翔」
「愛されてるって。変な言い方やめろよなー」
俺と園香がわちゃわちゃとしゃべっていると、後ろから誰かが話しかけてきた。
「誰が誰を愛してるって?」
その声を聞いて、俺と園香は背筋を伸ばした。
そして、俺が恐る恐る後ろを振り向くと、そこには図書室から帰ってきた伊吹が立っていた。
「あ、伊吹くん! おかえり!」
園香が機転を利かせて明るい声を出した。
そして、俺が貸した教科書を掴むと俺と伊吹に笑顔を向けて、じゃあね、と自分の教室に戻っていった。
(あいつ〜。逃げたな!)
俺は、笑顔で俺と伊吹に手を振る園香を横目に見ながら、苦笑いをして伊吹を見上げたのだった。
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