4

1/1
前へ
/8ページ
次へ

4

「木下と何話してたんだ?」  園香が去った教室で、伊吹が俺に尋ねた。 「ん? 大したことじゃねーよ。俺が伊吹に愛されてていいよね、だってさ」 「は?」 「あ、勘違いすんなよ? 幼馴染と仲が良くていいね、って意味で言ったんだろ」 「そうか……」  伊吹は、どこか安心したように息を吐いた。 「どうしたんだ? 伊吹」 「いや、なんでもない。愛する『幼馴染』がいて俺は幸せだよ」  そう言って、伊吹は俺の頭を撫でた。 「おいこら、伊吹。子供扱いすんな!」 「はいはい。俺は席に戻るよ」  怒る俺に優しく笑いかけながら、伊吹は自分の席に戻り、図書室で借りてきた本を読み始めた。 俺は、そんな伊吹を見ながら先程の園香の言葉を思い出した。 「いつも翔の少し後ろから見守ってる感じ? 幼馴染に愛されてるよね、翔」  (いつも後ろから見守ってる? そりゃ、俺の後ろの方の席だし? 伊吹のほうが俺より背が高いから並ぶ時も絶対俺の後ろだし……) 「あーもう。園香が変なこと言うから気になるだろ……」  俺は小声でそうつぶやくと、机に突っ伏して目を閉じた……。           ☆  三月に入ったばかりのある日。 他校との練習試合で、伊吹が足の怪我をした。 相手の選手とボールを取り合っている時に、足を引っ掛けられ転倒したのだ。 伊吹は市内の病院に運ばれ、そのまま入院することになった。 診断の結果、全治三週間の脱臼骨折だった。 生まれてからこれまで、こんなに長い間伊吹に会えなくなったのは初めての体験だ。 俺は、後ろを振り向いて誰も座っていない伊吹の席を眺める。  (今まで、一緒にいるのが当たり前って思ってたからな……。なんか、寂しい……?)  俺は、自分がこんな気持ちになっていることに驚いた。 伊吹がいなくなって気付いたが、もしかしたら俺、伊吹のこと……。 いや、そんなことがあるわけがない。 こないだの園香の言葉から、変に意識してしまっているだけだろう。  (もう少し経ったら伊吹のお見舞いに行こう)  俺は前に向き直すと、窓の外を眺めながらそう考えたのだった__。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加