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「木下と何話してたんだ?」
園香が去った教室で、伊吹が俺に尋ねた。
「ん? 大したことじゃねーよ。俺が伊吹に愛されてていいよね、だってさ」
「は?」
「あ、勘違いすんなよ? 幼馴染と仲が良くていいね、って意味で言ったんだろ」
「そうか……」
伊吹は、どこか安心したように息を吐いた。
「どうしたんだ? 伊吹」
「いや、なんでもない。愛する『幼馴染』がいて俺は幸せだよ」
そう言って、伊吹は俺の頭を撫でた。
「おいこら、伊吹。子供扱いすんな!」
「はいはい。俺は席に戻るよ」
怒る俺に優しく笑いかけながら、伊吹は自分の席に戻り、図書室で借りてきた本を読み始めた。
俺は、そんな伊吹を見ながら先程の園香の言葉を思い出した。
「いつも翔の少し後ろから見守ってる感じ? 幼馴染に愛されてるよね、翔」
(いつも後ろから見守ってる? そりゃ、俺の後ろの方の席だし? 伊吹のほうが俺より背が高いから並ぶ時も絶対俺の後ろだし……)
「あーもう。園香が変なこと言うから気になるだろ……」
俺は小声でそうつぶやくと、机に突っ伏して目を閉じた……。
☆
三月に入ったばかりのある日。
他校との練習試合で、伊吹が足の怪我をした。
相手の選手とボールを取り合っている時に、足を引っ掛けられ転倒したのだ。
伊吹は市内の病院に運ばれ、そのまま入院することになった。
診断の結果、全治三週間の脱臼骨折だった。
生まれてからこれまで、こんなに長い間伊吹に会えなくなったのは初めての体験だ。
俺は、後ろを振り向いて誰も座っていない伊吹の席を眺める。
(今まで、一緒にいるのが当たり前って思ってたからな……。なんか、寂しい……?)
俺は、自分がこんな気持ちになっていることに驚いた。
伊吹がいなくなって気付いたが、もしかしたら俺、伊吹のこと……。
いや、そんなことがあるわけがない。
こないだの園香の言葉から、変に意識してしまっているだけだろう。
(もう少し経ったら伊吹のお見舞いに行こう)
俺は前に向き直すと、窓の外を眺めながらそう考えたのだった__。
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