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晴天の日曜日。
俺は、伊吹が入院している病院に向かっていた。
右手には、母さんから待たされたお見舞いのフルーツの詰め合わせが入った紙袋。
そして左手には、伊吹が好きそうな小説を何冊か見繕ってきたと言って姉ちゃんから渡された袋。
電車で一駅の改札を出て、病院に続く道を歩いていくと、見慣れないものが多く、いつもと違った街並みが広がっていて何だか異世界に来たような気持ちになるから不思議だ。
俺は、少しソワソワする気持ちを抑えて病院へ急いだ。
(いつも知らない所は伊吹と来てたからなー)
そんなことを思いながらしばらく歩くと、やっと病院らしき建物が見えてきた。
「やっと着いた〜」
病院の入り口で、俺はそう言いながら建物を見上げた。
そして、五階の伊吹が入院している部屋に向かった。
俺が伊吹の部屋の前にたどり着くと、中から笑い声が聞こえてくる。
(ん? 誰か来てんのか?)
部屋に入るのを少しためらい、俺は中の様子をうかがっていた。
笑い声が混ざる会話が微かに聞こえる。
どこかで聞いたような、聞き覚えがある声に俺は思わず部屋のドアを開けてしまった。
(やべっ!)
そう思った時にはすでに遅く、伊吹がこちらに話しかけてきた。
「誰?」
俺は、観念して伊吹と見舞いに来ている誰かの前に出た。
すると、そこには同じクラスの弥生がいた。
(夏目さん? 何でここにいるんだ?)
俺がその場で固まっていると、ベッドに横になっている伊吹が嬉しそうに俺に話しかけた。
「翔、来てくれたのか」
「お、おう。どうだ? 具合は。てか、夏目さんも来てたんだね。俺、邪魔だったか? 悪ぃ……」
「何で謝ってるんだ? 夏目さんは色紙を持って来てくれただけだ」
「は? 色紙?」
俺がそう言うと、弥生はこくんとうなづいた。
「クラスの女子全員で伊吹くんに色紙を書いたの。それで、私が代表して持ってきたんだ」
「クラスの女子全員? すげー」
(そんなもん、いつの間に書いてたんだよ、女子……)
気が利かない男子と団結力がある女子の違いに呆然としていると、弥生が伊吹に声をかけた。
「伊吹くん。私、もう帰るね。今日は伊吹くんと話が出来て楽しかった。早く元気になってね」
「ありがとう。また学校で。みんなによろしくね」
「うん! 翔くんもまた学校でね! ばいばい」
「う、うん……ばいばい」
(夏目さんってこんなに伊吹と仲良かったっけ?)
ニコニコと嬉しそうに帰る弥生の後ろ姿を見ながら、俺はなぜか複雑な気持ちになっていた……。
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