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 弥生が帰った後、俺は複雑な気持ちで伊吹と二人きりになっていた。 とりあえず、持ってきたお見舞いの品を伊吹に渡す。 「これ、母さんから。こっちは姉ちゃんから渡してくれって預かってきた」 「そうか。二人にお礼を言っておいてくれ」 「おう」    シーン    久しぶりに会ったせいか会話が続かず、沈黙が気まずい空気を広げていく。 これ以上この沈黙に耐えられず、俺は伊吹のベッドの横に置かれた雑誌を手に取った。 何気にページをめくると、そこには『恋愛特集』という記事が載っている。  (そういや、伊吹と恋バナってしたことないよな……。そもそも伊吹ってどんな女子が好みなんだ? 誰もいねーし、聞いてみようかな……) 「なあ、伊吹」 「うん?」 「これ見ろよ」  俺は、雑誌の『恋愛特集』を伊吹に見せた。 伊吹は、不思議な顔をして俺を見つめた。 「どうしたんだ、翔。こんなもの俺に見せて」 「いやさ、俺たちってずっと小さい頃から一緒にいるけど、恋バナってしたことないよな」 「そんなこと、考えたこともなかったな。サッカーのことばかり考えてた」 「だろ? だから、恋バナしよーぜ」 「はぁ? 何を話せばいいんだ?」  伊吹は、興味なさそうに雑誌の記事を見つめた。 俺は、さりげなく伊吹に尋ねた。 「伊吹はさ、どんな女子がタイプなんだ? あ、もしかして夏目さんみたいな子?」 「なんで夏目さんが出てくるんだよ」 「だってさっき結構楽しそうに笑ってたじゃん」 「普通だろ……もしかして翔、ヤキモチ妬いてるのか?」  伊吹は、俺を揶揄(からか)うように俺の顔を下から見上げた。 見慣れているはずなのに、その綺麗な顔になぜかドキドキしてしまう。 俺は、そんな気持ちを悟られないように伊吹から目を逸らして、雑誌に載っている女性モデルを指差した。 「そ、そんなわけねーだろ! てか、この中で伊吹だったら誰を選ぶ?」  伊吹は、俺が指差したページを黙って見ると、しばらく考えながら一人のモデルを指差した。 「これ、かな……」 「へ、へ〜。伊吹はこういう人がタイプなんだな。可愛い系か」 「そういう翔は? どんなタイプが好きなんだ?」 「は? 俺?」  どんなタイプが好きかと聞かれ、さっき見た伊吹の綺麗な顔が脳裏に浮かぶ。  (いや、なんでここで伊吹の顔が浮かんでくんだよ……。重症だろ、俺……)  俺は、脳裏から伊吹の顔を消す努力をしながら、適当にモデルを選んで指差した。 「こ、こんな感じの子かな……」 「ふ〜ん。翔は綺麗系が好きなのか。覚えておく」 「覚えなくていいだろ。あはは」  伊吹の言い方に少しトゲのようなものがあったような気がしたが、動揺していた俺は気持ちを隠すように笑いながらおどけて見せたのだった__。
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