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7
「ねぇ、翔。ちょっと手伝ってよ」
三月が終わり、四月になったばかりの日曜日。
巷ではエイプリルフールと呼ばれる日。
そんな日に、俺は姉ちゃんに呼び止められた。
「何?」
「こんど学校でメイクの試験があるのよ。あんた練習台になってくれない?」
「はぁ? メイクの練習台? 俺が?」
「うん。あんた結構可愛い顔してるし。お願い! もっと可愛くしてあげるから!」
姉ちゃんはそう言って、俺に手を合わせた。
なんで俺が……っと言い掛けて、俺はある事を思いついた。
(今日ってエイプリルフールだったよな。伊吹、退院して暇持て余してそうだし、驚かせてやるか……)
俺は、伊吹が入院していた時に見た雑誌と同じものを姉ちゃんに差し出した。
お見舞いの後、本屋で買っておいたのだ。
「この雑誌がどうかしたの?」
姉ちゃんが、訝しげに俺と雑誌を交互に見た。
俺は、伊吹の好きなタイプだというモデルが載っているページを開き、そのモデルを指差した。
「メイクすんなら、この子みたいにしてくれよ」
「へぇ、可愛い子ね。あんたこういう子が好きなんだ」
「違げーよ。俺じゃなくて、伊吹」
「伊吹くん? なんであんたが伊吹くんの好きなタイプの女の子になりたいわけ?」
「今日はエイプリルフールだろ? 伊吹、退院してからちょっと落ち込んでるらしいしさ、笑わせてやろうってことだよ」
「ふーん。まぁ、私はメイクさせてくれるなら何でもいいわよ」
姉ちゃんは、俺の悪戯にあまり興味がない感じで早速メイクを始めた。
伊達に学校に通っているわけではなさそうで、手際よくモデルに似たメイクを施していく。
鏡に映る俺は、瞬く間に雑誌のモデルのような顔に変わっていった。
「はい、終わり! どうよ?」
姉ちゃんが勝ち誇った顔で俺に言った。
「すげー! 俺、このモデルに似てる……可愛い……」
「私の腕がいいからでしょ! あ、そうだ!」
姉ちゃんはそういうと、女性用のカツラと自分の洋服を引っ張り出してきた。
「どうせだったら、本格的に仕上げようよ!」
そう笑顔で言う姉ちゃんが、今一番エイプリルフールを楽しんでいる気がして、俺は声を出して笑った。
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