滞在

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滞在

 朝になって、部屋の外が騒がしくて目が覚めた。ベッドから起き上がって、姿見の前で昨日の夜に手渡された洋服を着てみた。体型が隠れるワンピースみたいな服だったが、胸元に金の刺繍が施してあった。 「おはよう、リューン」 「ファビエル・・・・・・これ、変じゃないか?」 「いや、似合ってる」  ファビエルくんは僕を抱きしめると、額にキスをした。 「額にキスをするのって魔族領での習慣?」 「いや・・・・・・でも、キスをしておけば、誰のものか分かるし、他の奴は手を出したり出来ないと思うから」 (もしかして、城の中でも危険があるのか? それなら、あまり出歩かない方がいいかもな・・・・・・) 「危険だから、あまり出歩かない方がいい?」 「・・・・・・そうだね」 「分かった」 「リューン・・・・・・残念なお知らせだ。昨日の雨で、伯爵領に繋がる道が、土砂崩れで通れなくなってしまっているんだ。迎えが来るのは、少し先になるかもしれない」 「えっ・・・・・・」 「しばらく、ここにいてくれて構わないから・・・・・・」 「ありがとう・・・・・・でも、悪いし。休んだら歩いて帰るよ」 「それが生憎、通れそうな道がないんだ」 「じゃあ、申し訳ないけど・・・・・・昨日の浮遊術だっけ? それで、送って貰うことは・・・・・・」 「ごめん。あれは、魔術以外に特別な薬が必要で・・・・・・行商人が来る来月まで、使えないんだ」 「ごめん・・・・・・そんな大切な薬を使わせてしまっていたんだね」 「いや、いいんだ。僕の大切なリューンのためだから・・・・・・」 「ありがとう」 (ファビエルくんは、何て友達思いのいい奴なんだろう) 「紹介しておくよ。侍従のシモンだ。滞在中は、彼が君の世話をしてくれる」  ファビエルくんの後ろで控えていた青年が、こちらを見て黙礼をしていた。 「リューン様、よろしくお願い致します」 「こちらこそ、よろしくお願い致します」  その後、シモンさんに部屋の中にある設備の説明を受けていたが、最新式の魔術具のある屋敷に住めるファビエルくんは何者だろう? という疑問が湧いていた。けれど、淡々と語るシモンさんに、僕は質問することが出来なかった。 (まあ、いいか・・・・・・ファビエルくんに、後で直接聞いてみよう)  運ばれてきた食事で遅めの朝食を摂ると、昨日の疲れが出たのか眠くなってきてしまい、そのあと軽く湯浴みをしてから、昼寝をしたのだった。
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