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彼女
広い講義室でアイツの目につかない場所を探した。
沢山の蟻達に囲まれたアイツは、何処にいても目立つ存在だった。
男数人の達の集まりと違って、華やかな雰囲気で他を圧倒する存在感を振りまいている。
授業が終わると、直ぐに教室から出て次の授業までカフェで話をするのが俺達スポーツ男子の定番だった。
色気の無いスポーツ女子が加わって、賑やかさと食欲だけで座は盛り上がる。
高校1年で初めて女子と付き合い、男としての経験も何度かあったものの、長い付き合いには発展しなかった。
その後も数人の女子に告白され、断る煩わしさも手伝って何度か付き合ってはみても、セックスの快感を味わうことはなかった。
女性の身体に興味はあっても、実際手に入れてみると、それ程いいとも思わず夢中になることはなかった。
バスケ部の新歓で告られた同じ学年の女子とは、その後何度かデートを重ね、意気投合したとは言え、会話が弾むことはあっても性的な興味を感じることはなかった。それでも、構わないと言われ休憩中もランチも一緒にいることが多かった。
同じバスケをやっている彼女は身長も高く、スポーツ女子らしからぬ美人で、二人並ぶとお似合いのカップルだと言われることが多かった。
彼女の明るさと軽妙な会話は楽しく、部員達やクラスでは恋人同士だと思われても少しも嫌だとは思わなかった。
むしろ、彼女のお陰で他の女子からのアプローチがなくなった分、煩わしさから逃れられて助かったと思っていた。
他のカップルがどうなのかは分からないが、彼女との間に性的な関係は無く、親友と言ってもいい関係だった。
学食でランチをしていると、一際目立つ集団が入ってきた。
華やかな服装の女子とお洒落な男達の集団だった。
学食が騒めき始め、見ると集団を率いるアイツと目が合った。
大学に入って、益々磨きのかかった容姿とファッショナブルな服装に学食にいた生徒が一斉に注目する中、食事を終えた俺は彼女を促し外へ出た。
「ね、あの人、工学部の布木 侑星君だよね、彼学校中の話題になってるよ。知ってた?」
「アイツが?何で?」
「彼って、誰が告白しても絶対靡かないんだって。どうやら、好きな人がいるらしくて、その人に片想い中なんだって」
「ヘェ〜アイツが片想い?信じられないな」
「アイツがって・・・・・知り合いなの?」
「アァ、小学校からずっと一緒なんだ」
「そうなんだ、仲良いの?幼なじみってやつ?」
「そんなんじゃねーよ、ただずっと同じ学校行ってただけだよ」
「どんな人なの?」
「さぁ?話したことないし」
「そうなんだ、あんな素敵な人とずっと一緒に居たのに話したこともないって・・・・・勿体無い・・・・・」
勿体無いの意味が理解出来ない、アイツと話をしないことが勿体無いとは、どういう事なんだろう?
確かに小学校から一緒なら、幼なじみだと言われても間違いでは無いが、俺とアイツの間にはそんな親しさも懐かしさも無く、直接話をしたのも高校3年の1回だけだった。
しかも、あれは話をしたというより、俺がただアイツに質問をぶつけただけで、アイツにとっては思い出すのも嫌な時間だったに違いない・・・・・
アイツを泣かせた唯一の酷い男として、アイツの脳裏に自分が残っているかと思うと、何故かひどく寂しかった。
初夏の眩しい陽射しに目を眇めながら、次の授業の為に彼女と一緒に教室へ向かった。
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