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後悔
厚く積もった雪が溶け出し、埋もれていた布木への恋心が姿を現した。
布木に群がる蟻達を軽蔑しながら、実は自分もそうなりたいと心ひそかに思っていた。
それが出来ない自分を誤魔化すために、布木を嫌いだと信じていた。
12年もの間、押さえ込んでいた感情に気がつき、弱みにつけこむようにキスをした自分が許せなかった。
アイツの気持ちを無視した行為をアイツはどう思っただろう。
夜が明ける前に布団を抜け出した布木は、何も言わずに部屋を出ていった。
引き止める事も、声をかける事も出来ずに寝たふりをしていた。
ぽっかりと空いた空間が、ついさっきまで布木のいた事を思い出させた。
布木の残り香が枕にも布団にも残っていて、寂しくなった胸を掻きむしる。
翌日いつものように教室へ行くと、アイツは多くの男女に囲まれていた。
ゆうべのことなど何も無かったような、明るい笑顔で話をしていた。
アイツが無かったことにしたいのなら、自分もそれに従うしかなく、無理に問いただすつもりはなかった。
あの状況で彼の言った『抱きしめて欲しい』と言う言葉も、自分が思わずキスした事も、全ては極限の状況でのアクシデントだったと、そう思うことにした。
自分の布木への気持ちがわかった以上、他の誰かと付き合う気はなかった。
誰と付き合っても、あんな気持ちになる事はない。
例えそれが、伝わらない気持ちだったとしてもそれはそれで良かった。
これまでの12年間、自分でも気が付かなかったアイツへの気持ちの代償だと思うことにした。
誰かを好きだと思う事が、こんなにも切ないものだと思わなかった。
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