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変わる気持ち
布木への気持ちに気がついてから、アイツのことが気になって仕方がなかった。
いつものように大勢の男女に囲まれているアイツをただ見ている事しか出来ず、彼らと同じようにアイツの側にいる事も出来ない。
これまでと同じように、離れた場所でアイツには全く興味のない振りを装った。
賑やかに笑い合う声も、これ迄なら気にもならなかったのに、今では彼の一挙手一投足から目が離せなかった。
午前中の授業が終わり、ランチを食べるために学食へ向かった。
トレイを持って、席を探していると奥の席にアイツを囲む集団が居た。
トレイを持ったまま、視線がアイツに釘付けになった。
空いた席に向かおうと思うのに、身体が固まったまま動かない。
彼女に後ろから突かれ、ようやく正気に戻った。
慌てて席に着き、何事もなかったかのように食事を始めた。
「響、どうしたの?」
「いや、別に・・・・・」
「最近の貴方変よ、何かあったでしょ」
「なんでもない・・・・・」
これ以上詮索されたくなかった、アイツのことを好きだとバレてしまうことが怖かった。
アイツが襲われた事も、あの夜アイツを抱きしめたこともキスした事も知られたくなかった。
納得はしていないだろう彼女は、それでもそのまま何も言わずに食事を食べ始めた。
彼女のことなど忘れ、頭の中では何とかアイツに近づく方法を模索した。
蟻の仲間にはなれなくても、話をするくらいの友達にはなれないだろうか?
これまで、完全に無視したくせに、今さらそんな事を考えている自分の身勝手さに呆れながら、なんとか近づきたいと思っていた。
だからと言って、自分から手を振って近づく勇気などなく、気長にチャンスを待つしかないと諦めた。
教室に戻って、午後の授業が始まってもずっと同じ事を考えていた。
部屋が隣同士なら、偶然を装ってアイツと会うチャンスを自ら作る事も出来なくはない・・・・・
アイツが帰ってくるのを部屋の前で待ち、偶然自分も今帰ったと挨拶すれば、そこから話が出来るかもしれない。
普通に会話が弾めば、友達になり食事をしたり一緒に登下校する事もできる。
そうやって、徐々に親しくしていけばいつか自分の気持ちに気がついてくれるかもしれない・・・・・
そんな先の事まで考えていた。
アイツにどう思われているかも分からないし、まだ話さえ出来ていないのに、勝手な想像が楽しくて仕方なかった。
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