二人の晩御飯

1/1
前へ
/46ページ
次へ

二人の晩御飯

7時5分過ぎになるのを見届けて、冷蔵庫からケーキの箱を出し、隣の部屋のチャイムを押した。 「開いてるよ」 部屋の中から、アイツの声が聞こえてドアを開けると、美味しそうな匂いがしていた。 同じ作りの部屋なのに、自分の部屋より清潔感があって、テレビやオーディオ類は部屋の一角に纏めて置かれているためか広く感じた。 キッチンではアイツが鍋をかき混ぜ、お玉で味見をしている所だった。 何だか急に照れ臭くなった。 「何作ってんだ?」 「(ひびき)の好みがわからなかったから、普通に味噌汁と豚カツとサラダなんだけど、わざわざきてもらったのに、大したものじゃなくてごめん」 「そんな言うなよ、ご馳走じゃないか。これ食事の後食べようと思って買ってきた」 ケーキの箱を差し出すと、アイツが嬉しそうに箱を開けた。 「苺のケーキだ・・・・・ありがとう。苺大好きなんだ、よく分かったね」 「・・・・・適当に買っただけだけどな、好きで良かった」 満面に笑みを浮かべた顔がキラキラと輝くようで思わず、目をそらさずにはいられなかった。 テーブルに並べられた料理を二人で向き合って食べながら、たわいのない話は途切れることなく続いた。 こんなに話すことがあったのかと、不思議な気がするほど、楽しい会話だった。 「友達にもこんな風に料理作ったりするのか?」 「しないな、この部屋に来たのは(ひびき)が初めてだよ」 「そうなんだ・・・・・それにしても、綺麗にしてるな、俺と同じ部屋だとは思えない」 「(ひびき)の部屋はどんな感じ?」 「俺の部屋は雑然としてるかな・・・・・どうせ、誰も呼んだりしないから、まとめて片付けてる感じ」 「(ひびき)は今は、彼女いないって言ってたけど、高校の時から女子にはモテてたよね」 「そうだったか?そうでもないだろ」 「よく女子と歩いてるとこ見たし、下級生にも人気だったよ」 「侑星(ゆうせい)こそ、クラスでは人気者だっただろ?今もそうだけど・・・・・」 「僕のは、みんなが集まってるだけだよ。特に意味があるわけじゃない」 「そう言えば、ずっと片想いしてる人がいるんだって?だから、誰とも付き合わないんだって、聞いたけど、どうなんだ?」 以前、彼女に聞いた事をさり気なく聞いてみた。 ずっと気になっていた、本当に片想いしている相手が居るのだろうか? こいつが告白して断る女がいるとは思えない、長いこと片想いしているなんて、ただの噂だろうと思いながら、確かめずにはいられなかった。 そしてアイツの答えが、”そんなのはただの噂だ”と笑って言うだろうと思っていた。 だが、アイツの答えは自分が思っていたものとは、違っていた。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加