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二人の晩御飯
7時5分過ぎになるのを見届けて、冷蔵庫からケーキの箱を出し、隣の部屋のチャイムを押した。
「開いてるよ」
部屋の中から、アイツの声が聞こえてドアを開けると、美味しそうな匂いがしていた。
同じ作りの部屋なのに、自分の部屋より清潔感があって、テレビやオーディオ類は部屋の一角に纏めて置かれているためか広く感じた。
キッチンではアイツが鍋をかき混ぜ、お玉で味見をしている所だった。
何だか急に照れ臭くなった。
「何作ってんだ?」
「響の好みがわからなかったから、普通に味噌汁と豚カツとサラダなんだけど、わざわざきてもらったのに、大したものじゃなくてごめん」
「そんな言うなよ、ご馳走じゃないか。これ食事の後食べようと思って買ってきた」
ケーキの箱を差し出すと、アイツが嬉しそうに箱を開けた。
「苺のケーキだ・・・・・ありがとう。苺大好きなんだ、よく分かったね」
「・・・・・適当に買っただけだけどな、好きで良かった」
満面に笑みを浮かべた顔がキラキラと輝くようで思わず、目をそらさずにはいられなかった。
テーブルに並べられた料理を二人で向き合って食べながら、たわいのない話は途切れることなく続いた。
こんなに話すことがあったのかと、不思議な気がするほど、楽しい会話だった。
「友達にもこんな風に料理作ったりするのか?」
「しないな、この部屋に来たのは響が初めてだよ」
「そうなんだ・・・・・それにしても、綺麗にしてるな、俺と同じ部屋だとは思えない」
「響の部屋はどんな感じ?」
「俺の部屋は雑然としてるかな・・・・・どうせ、誰も呼んだりしないから、まとめて片付けてる感じ」
「響は今は、彼女いないって言ってたけど、高校の時から女子にはモテてたよね」
「そうだったか?そうでもないだろ」
「よく女子と歩いてるとこ見たし、下級生にも人気だったよ」
「侑星こそ、クラスでは人気者だっただろ?今もそうだけど・・・・・」
「僕のは、みんなが集まってるだけだよ。特に意味があるわけじゃない」
「そう言えば、ずっと片想いしてる人がいるんだって?だから、誰とも付き合わないんだって、聞いたけど、どうなんだ?」
以前、彼女に聞いた事をさり気なく聞いてみた。
ずっと気になっていた、本当に片想いしている相手が居るのだろうか?
こいつが告白して断る女がいるとは思えない、長いこと片想いしているなんて、ただの噂だろうと思いながら、確かめずにはいられなかった。
そしてアイツの答えが、”そんなのはただの噂だ”と笑って言うだろうと思っていた。
だが、アイツの答えは自分が思っていたものとは、違っていた。
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